【2012年10月16日/2024年12月追記】手ぶらの経堂から成城学園前のキヌタ文庫

【2012年10月16日】
経堂きょうどう
駅前商店街、依藤書店はどこにもない。廃業したようだ。
さっそくつまづいて、とぼとぼ歩を進めると四辻の先に古本が見えた。早足になる。
大河堂書店、古い岩波文庫を中心に、品切や絶版の文庫本の量が多い。
今にも何かが見つかりそうで、しかし何も買えなかった。
四辻に戻り、左に曲がれば遠藤書店の支店があるはずだが見当たらず。
北口に行って古本大学経堂店はどうだろう、ここも撤退。
遠藤書店は定休日。手ぶらの経堂。またいつか出直そう。

つづいて成城学園前。
諸々の豪邸を見物しながらキヌタ文庫を目指す。
即売展では御馴染みで、青木正美『古本屋群雄伝』にも取り上げられている名店だ。
文庫の棚から『明治鉄道物語』原田勝正(講談社学術文庫/2010)600円。2年前の刊行で、慌てて買う必要はなさそうだが、とにかく今日は、何か1冊でも買わないことには手先が落ち着かない。
帳場では白髪の御主人と常連さんが切手談義を交わしている。
画集や図録を取り揃えた小部屋もあり、見応えがあった。
隅々まで正調に整った書架。そうかと言って高見から威圧するような空気ではなく、近所のおじさんや学校帰りの高校生がふらりと入店する。
心地のよい古本屋は風通しがよい。澱まない。

【2024年12月追記】経堂の古本屋
世田谷区経堂は古本の達人、植草甚一【うえくさ・じんいち、1908(明治41)-1979(昭和54)】が暮らした町としても知られています。
2012年当時、野村宏平『ミステリーファンのための古書店ガイド』(光文社文庫/2005)を携えて経堂を歩きましたが、同書に紹介されていた5店舗のうち「依藤書店」「遠藤書店支店」「古本大学経堂店」の3店が既に閉店、「遠藤書店」が定休日。
古本屋巡りというよりは古本屋が無くなっていることを確かめに行ったような、冴えない探訪記となっています。
「遠藤書店」はその後、改めて出直して探訪を果たしましたが、J・J氏(植草甚一の愛称)が常連だったという名店も2019年4月30日に閉店となりました。
翌年の2020年10月31日には「大河堂書店」が店舗閉店。
経堂の町から古本屋が消え去ってしまいます。
しかし2年後の2022年9月、西通り商店街に「ゆうらん古書店」が開店し、古本屋の灯はふたたび点りました。天国のJ・J氏はさぞや喜んだと思われます。ちいさなお店ながらいずれの棚にも見どころがあり、黄昏時ともなれば、きっとJ・J氏(のオバケ)が今日も明日も古本を漁っているでしょう。
経堂駅の南口には「BOOKOFF総合買取窓口経堂農大通り店」があり、一応は古本の販売も行なっていますが、古本屋らしい古本屋は、ゆうらん古書店が唯一です。開店から2年が過ぎて、もはや経堂には欠かせない存在となっているはずです。
なお、新刊書店は駅北口のコルティ経堂の2階に「三省堂書店経堂店」があります。店内の片隅でひっそりと古本を販売していたこともありましたが、最近はどうなのでしょう。
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成城学園前の「キヌタ文庫」は現在も営業しています。
以前は東京古書会館の即売展「書窓展」に参加されていましたが、2019年に退会しています。