【2012年10月30日/2025年1月追記】神田古本まつりぶらぶら

【2012年10月30日】
昼過ぎ、神田古本まつり
岩波ブックセンター脇の路地棚でアダモフ『海底五万マイル』(講談社=世界の科学名作/昭和41)函付で1500円。アシモフなら聞いたことはあるがアダモフは知らなかった。
値札を見るとぶっくす丈の出品で、それだったらもうちょっと安くてもよいのでは……、と一旦は通過するが待てよ、ぶっくす丈だからこの価格で収まっているのかもしれないと思い直し、引き返して購入した。
靖国通りを西へ進み、古書たなごころの屋台に寺下辰夫『珈琲交遊録』(いなほ書房/昭和57)を見つける。
元値3500円が1500円に値下げされている。そうするとこれは、いつだったかの即売展に出品されていた1冊が、売れ残って、値を改めて放出されたようだ。
矢口書店の壁棚の斜向かい、みなづき書房が撤退した店舗跡に、移転なのか支店なのか、東松原の中川書房が進出していた。内装や書架の配置は、みなづき書房のそのまま。入口には方々の書店からの開店祝いの花束が盛大。〈ご自由にお持ちください〉の計らいに、古本には用のなさそうな御婦人たちが手早くお花を抜き取っている。
端まで行ってこんどは東へ折り返す。
田村書店まで進んだところで小休止、ミロンガで珈琲を飲む。
後半はこれという発見はなく、裸電球の灯りはじめた古本屋台をもういちどぶらぶら。

「第53回神田古本まつり」パンフレット
《神田古本まつり》第53回/パンフレット
(神田古書店連盟/2012)

【2025年1月追記】神田古本まつりの帰り際
古本の一大祭典を訪れたにしては気の抜けた日記ですが。
「神田古本まつり」では神保町を東西に貫く靖国通りに沿って、古本屋台がずらりと並びます。
東の駿河台下交差点から、神保町交差点をあいだにはさんで、西の専大前交差点近くまで、約70店舗の参加があります。
棚に近づけないほど人だかりのする所もあれば、ぽっかり閑散としている所もありますが、いずれの参加店もそれぞれ独自の品揃えを見せてくれます。
古書店街のメインストリートでもありますから、片方に屋台、片方に古書店、左右どちらを見てもひたすらに、古本です。
距離にしておよそ500メートル。普通に歩けば10分もかからないでしょう。端から順に、入念に見てゆくとなると、2時間なのか、半日なのか、軽率な予測はできません。
1冊、また1冊と買い足せば鞄は重たくなり、もちろんそれは嬉しい重さですけれど、肩には食いこみます。
歩けばだんだん疲れます。喉が渇き、お腹も減る。
神保町は飲食店もたくさんありますから、あまり頑張りすぎず、休み休み歩くのがよいのでしょう。
しかしカレーを食べたり珈琲を飲んだりしている今この瞬間、長年探し続けてきた本が誰かに買われてしまうかもしれない。
そんなことは心配しなくてもよさそうですが、気になりだすと御飯が喉を通らなくなるかもしれない。もしそうなったとしたら、あなたの古本人生双六は、いよいよ佳境に差し掛かってきたのではないか、と思われます。
見かけたときに買う。迷ったら買う。
やはり基本かつ鉄則でしょう。
買ったあとに同じ本を見つけたりすると、そちらのほうが安い。しばしば体験します。
それでも買い渋った後々に煩悶することを思えば、3000円くらいの違いはほんの誤差だと心得て、多少の散財は覚悟のうえで見かけたときにすっきり買ってしまうほうが安寧です。
つよく記憶に残るのは買った本よりも買いそびれた本の幻影です。
端から端まで歩き通すころ、いつしか日も暮れて、屋台に吊るした電球や沿道に連なる提灯に明かりが点ります。
神田古本まつりの会場は靖国通りの南側になりますが、神保町交差点を渡り、北側の歩道からやや遠巻きに見渡しますと、明かりの下の古本と、そこを行き交う人影の、何か胸に染みこむような夕景です。
地下鉄駅の入口に立って、立ち去りがたく、しばしぼんやりと眺め入ります。
  ◇
簡単な補足をしておきますと、『海底五万マイル』を買った「ぶっくす丈」、『珈琲交遊録』を買った「古書たなごころ」は、その後閉業されました。
みなづき書房の店舗を受け継いだ「中川書房」は移転でした。東松原にあった店舗は「古書瀧堂」が受け継ぎます。両店共々、現在も同地で営業しています。