【2012年11月9日/2025年2月追記】趣味展で『一円札と猫』、古書感謝市で『長崎抜天漫筆集』など

【2012年11月9日】
東京古書会館、趣味展
扶桑書房のじたばたは1冊も獲得ならず。
いつもより早めに並んだのだが結果はこうなる。たとえ一番乗りを果たしたとしても同じなんだろう。
それで、ちらりと隣人の収穫を覗いてしまうと、抱え込んだてっぺんに里見勝蔵『異端者の奇蹟』が見えちまった。書名と価格を記した帯紙が巻いてあって、金千二百円。むふーッ。
よろけるようにぶっくす丈の棚へ。
伊波南哲『沖縄風土記』(未来社/昭和34)600円、戦中に刊行された『琉球風土記』に加筆した改訂版のようである。
眺めるだけの棚めぐりがしばらくつづいて終盤、銀装堂書店が床の上に並べた大判書の中にタイガー立石『虎の巻』(工作舎/昭和57)発見する。1000円はうれしい。
最後に扶桑書房に戻ると、もはや棚の方々に隙間風が吹き荒れているが、さっきは見落としたのかそれともどなたかが返却したのか、生方敏郎『一円札と猫』(日本書院/大正11/15版)は面白そうだ。
表紙の角書きに〈敏郎対話〉とあるとおり、様々な対話篇を収めてある。序文では論語やプラトンなど先哲の名著を引き合いに出しながら、この敏郎対話は「世間話」であると、やや謙遜のご様子。なるほど巻頭の表題作では、一円札と猫が何やら漫談めいた口振りで話し込んでいる。しかし――、あのソクラテスにしても、すぐにはぐらかしたり煙に巻いたりする話術は、漫談と言えないこともないのでは?……。大正11年の15版、初版は大正7年。函もカバーも無い裸本ながら400円は有難い。

生方敏郎「一円札と猫」表紙
『一円札と猫』生方敏郎
(日本書院/大正11/15版)

古書店街。小宮山書店ガレージセール
先週は店舗入口の店頭棚で1冊500円だった淡海文庫が10数冊、まとめてガレージセールに放出されていた。その太っ腹に感謝しつつ、先週も一旦は手にとった『ちょっといっぷく』大溪元千代(サンライズ印刷出版部=淡海文庫/1995)を買うことにする。元千代先生の著作は、このあいだ『近代たばこ考』を買ったばかりでもあり親しみが湧く。『ミニカメラの世界』宮部甫(現代カメラ新書/昭和58)と、絵本『海のおばけオーリー』マリー・ホール・エッツ(岩波書店/1996/12刷)と合わせて3冊500円。ここのガレージセールは、目ぼしい3冊が揃わずに、むず痒い思いをすること多々だが、今日はうまく揃った。ミロンガでいっぷく。

田村書店の店頭でトリスタン・ツァラの詩集『狼の泉』(書肆山田/1994)1200円を買い求め、九段下から高田馬場までの東西線でそれを読了しようと試みる。読み終わるわけがない。
高田馬場駅前、BIGBOX古書感謝市。『長崎抜天漫筆集』(日信企画/昭和62)500円、こんな本もあったのだな。新聞や雑誌に掲載された漫筆漫画を集めてあるのだが、それら散逸しがちな小品を1冊にまとめあげた編者依田信夫氏の、並々ならぬ情熱と骨折りだ。依田氏は抜天と交流があり、しばしば自宅も訪問したそうである。装幀は今ひとつ垢抜けないし、掲載紙(誌)の記載がないのは残念だが、そんな些事に構っていてはいけない。
その他、『海外ミステリ・ガイド』二賀克雄(ソノラマ文庫/昭和62)300円、『ニャロメのおもしろ数学教室』赤塚不二夫(角川文庫/昭和59)300円、文庫本を2冊。

依田信夫編「長崎抜天漫筆集」表紙
『長崎抜天漫筆集』依田信夫編(日信企画/昭和62)

電車の中で『狼の泉』。ガード下四文屋で『狼の泉』。
吉祥寺の古本センター巡回。
『ラーオ博士のサーカス』C・G・フィニー(ちくま文庫/1989)250円と、『京都書院アーツコレクション装幀集』(京都書院アーツコレクション/1998)250円。この『装幀集』の存在はさっきの趣味展会場で知ったばかり。さっきは売価1000円だったので見送ったが、古本センターでは250円。
駅前酒場でウーロンハイを飲みながら『狼の泉』。帰りの電車で『狼の泉』読了する。読み終わり、何も読んでいなかったと気づく。

【2025年2月追記】生方敏郎/長崎抜天
生方敏郎【うぶかた・としろう】1882(明治15)-1969(昭和44)。
群馬県沼田に生まれました。
東京朝日新聞などの記者を務める傍ら、随筆、評論、小説、翻訳と、執筆に精を出します。
主に大正から昭和戦前にかけて刊行された著書は20冊を超えます。
『人のアラ世間のアラ』『玉手箱を開くまで』『金持の犬と貧乏人の猫』『山椒の粒』『哄笑・微笑・苦笑』『東京初上り』『食後談笑』『不景気を笑ふ話』『ユーモア人生学』……題名を抜き出してみるだけでも、そのお人柄が浮かび上がってくるようです。
中公文庫に収録された『明治大正見聞史』(1978/のち2005改版)が、最も手に入り易い1冊でしょう。
昨今はほとんど名を聞く機会のない文筆家ではありますが、即売展では折に触れて眼にします。
書目や状態にもよりますが、1000円前後で見つかることも珍しくありません。
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長崎抜天【ながさき・ばってん】1904(明治37)-1981(昭和56)。
芝区新橋(現在の港区新橋)に生まれました。
漫画家です。
我が国最初の職業漫画家とも言われる北澤楽天に師事しました。
終戦後はNHKラジオ「とんち教室」のレギュラー陣の一人として活躍したそうですが、残念ながら私は放送を聞いたことはありません。
『絵本明治風物詩』(東京書房社/1971)は割合に古本で見かけます。
その他の著書となると滅多に出くわしません。
そもそも刊行作品の全貌がつかめません。
単独の著書では『マメ子ハト坊』(東京漫画出版社/昭和25)、共著書では保積稲天と共に作品を収めた『命のばし』稲天・抜天集/現代ユウモア全集第24巻(同刊行会/昭和5)、国会図書館の蔵書にはかろうじてこの2冊が確認できます。
図書館には辿り着かなかった漫画集など他にもありそうですし、ばってん先生、古本世界の片隅にまだまだきっと隠れているでしょう。どこかでばったりお逢いしたいものです。