【2012年2月10日】
東京古書会館、書窓展。
初日朝一番、あきつ書店の道場で30分ほど揉まれて、『郵便の旅行』山中光男(中央公論社ともだち文庫/昭和17)300円と、十返肇『現代文学の周囲』『文壇風物誌』、以上の3冊をよたよたと摑む。
杉波書林の棚で『透視下の生物』(アサヒ写真ブック/昭和31)200円。
叢文閣書店で『ニコニコ論語』牧野元次郎(静思館書房/大正5)300円。
ふたたびあきつ書店へ行き、ふたたび十返肇『贋の季節』。
古書たなごころでは寺下辰夫『珈琲交遊録』が面白そうだったが3500円は苦。
けやき書店で東成社ユーモア小説全集の1冊『地下鉄伸公』三木蒐一(東成社/昭和27)が1575円は快。
ふたたび杉波書林、カリジェの絵本『ナシの木とシラカバとメギの木』(岩波書店/昭和45)200円。
懲りずにあきつ書店、石川欣一『ひなたぼっこ』(桐陰堂目黒書店/昭和28)200円、玉川一郎『悲しき米』(新小説社大衆文藝新書/昭和17)1800円。
これで大勢は決したのだが、最後になって十返肇の3冊はすべて返却する。3冊とも、持っていないと言えば持っていないようであるし、持っていると言えばみんな持っているようでもあるのである。十返肇はいちどきちんと整理しないと同じ本を何冊も買う羽目になりそうだ。
さらに倹約のつもりで『郵便の旅行』も手放しかけたのだが――300円なんだけれども――、目次をよく見ると装幀と挿絵は山田みのると記してある。先日、〈日本の古本屋〉の通信販売で入手した漫画双紙『酒の虫』の山田みのると同一人なのかどうかは判らないけれど、やっぱり買っておこう。
計7冊、3時間の滞在。
田村書店の店頭と小宮山書店のガレージセールを巡回して、ミロンガで一休み。
珈琲を運んできてくれた店員さんが、テーブルの上に置いた『郵便の旅行』の表紙を指差して「かわいいですね」と言う。
思わず声を発するほどに、この表紙は彼女の眼に新鮮に訴えかけたようなのだ。
そこから会話を発展させる才はなく、「ええ、そうなんですよ」とか、ただそれだけでおしまいなんだけれども、古本を仲立ちにした一瞬の人生交歓?……『郵便の旅行』やっぱり買っておいてよかった。
古書店街の後半は珍しく明倫館書店の店内へ。もしかしたら『尋常小学算術第一学年児童用』があるのではないかと思い立って、数学書の棚を覗いてみたのだが、見当たらなかった。
ブンケン・ロック・サイドの店頭から『つけもの』小川敏夫(カラーブックス/昭和59)105円。
【2023年8月追記】山田みのる
漫画双紙『酒の虫』(磯部甲陽堂/大正7)の著者、山田みのるは大正時代に活躍した漫画家です。
岡本一平や北沢楽天らと交流を持ち、諷刺漫画を得意としました。
1925年(大正14)に35歳の若さで早世していますので、『郵便の旅行』が刊行された1942年(昭和17)は、漫画家がこの世を去ってから既に17年が経っています。
『酒の虫』と『郵便の旅行』の表紙絵を見較べると、どうやら画風は異なっており、年代と合わせ見ても、これら両者の山田みのるは同名の別人ということになりそうです(ご参考までに『酒の虫』の書影を下段に掲げておきます)。
漫画家の山田みのるは茨城県水戸の出身ですが、その水戸市立博物館では2019年に「大正の漫画家・山田みのる」という展覧会が開かれました。私は未見なのですが、図録も刊行されたそうなので、機会があれば、ぜひ手に入れてみたいです。
『郵便の旅行』の装幀と挿絵を担当したもう一人の山田みのるについては、詳しいことが判りません。
どのような画家(?)であったのか、経歴や人物像が気になるところではありますけれど、それら一切を省いてしまっても、雪の降り積もった丸ポストの絵は、「かわいい」絵として、後世に残ります。
この絵を見ていると、久しぶりの友人に、久しぶりの手紙など書いて、郵便ポストに投函したくなってきます。
(参考*「大正の漫画家・山田みのる」/〈水戸市立博物館〉展示案内/令和元)