【2012年2月25日/2023年9月追記】好書会で『ファッツトルコ』

【2012年2月25日】
雨。
高円寺に向かう電車の車中、胃がキリキリと差し込む。昨日、チト呑み過ぎた。
電車が荻窪駅の辺りを走るころ、そう云えば昨夜、あの夫婦(まず奥さんと妙な具合に話が盛り上がり、それから旦那さんも呼び出して、延々と3人で呑み続けた)の、或るエピソードを聞いて思わず涙ぐんだことを思い出した。
そこまでは思い出したが、さて、どのような話だったか、それ以上の記憶はきれいに消滅している。
西部古書会館、好書会。
雨降りの路上で開場を待つのは一苦労なのだが(ガレージには屋根があるがたいへん混み合う)、そこを配慮してくれたのか、定刻15分前の9時45分には室内も扉が開く。有難い。
時折、波濤のようにやってくる胃痛に苦戦しながら、ようやく『ファッツトルコ』木谷恭介(池田書店/昭和56)300円。
「トルコ風呂」は死語になって久しいが、トルコと聞いてまず思い浮かぶのは、やっぱり寺山修司の競馬予想コラムの、トルコの桃ちゃんだ。購入1冊。

木谷恭介「ファッツトルコ」表紙
『ファッツトルコ』木谷恭介
(池田書店/昭和56)

ネルケンにて熱い珈琲をすする。
胃のほうはどうやら治まったようだ。
『ファッツトルコ』の巻末に、版元の池田書店の出版広告があり、G・レグマン『オーラルセックス』は以前の即売展で購入した覚えがあるのだが、さらに続編として『フェラセックス』が刊行されているらしい。
ぼんやり煙草をふかせば、また昨夜の光景がオボロとなってよみがえり、古本屋は学校で、酒場も学校で、あるいはいつか、ガード下の教室からどこか別室の課外授業へ発展したらいったいどうなるのだろうと、莫迦な妄想はあぶくのように湧きあがり、あぶく、あぶく……、あぶくとなって消えてゆく。
吉祥寺に立ち寄って、藤井書店と外口書店をひとまわり。
古本センターでは『Shuffle!』11号(MAX/2002)、15号(同/2003)、妄想の延長か袋小路か、10年前のエロ本を購入する、各200円。

【2023年9月追記】木谷恭介
木谷恭介【こたに・きょうすけ、1927(昭和2)-2012(平成24)】
推理小説作家として名を知られます。
1977年、「俺が拾った吉野太夫」で第1回小説クラブ新人賞を受賞。
1979年に、最初の推理短編集『夜の深海魚』(桃園書房)を刊行したのち、1983年『赤い霧の殺人行』(徳間書店、のち徳間文庫/1989、さらにのち桃園文庫/2000)以降は、精力的に旅情ミステリーを執筆しました。
西村京太郎氏には及ばないとしても、全部で何冊の旅情ミステリーがあるのか、たくさん有り過ぎてとても数え切れません。
推理小説に専念する以前は、旅行ガイドブック、ラジオ台本、風俗業界探訪、官能小説と、多岐にわたる執筆活動を続けています。
『ファッツトルコ』(池田書店/1981)は、その前期における著作のひとつですが、推理作家として確立されている現在から振り返れば、異色の著書と呼べるのかもしれません。
池田書店からは同じく1981年に『トルコバイオレンステクニカ』という姉妹篇(?)も刊行されています。
異色ということであれば、編者を務めた『地獄大図鑑』(立風書房ジャガーバックス/1975)が最も変わり種と見えて、古書価の相場は1万円を超えてくるようです。
御本人が喜ぶかどうかは何とも言えませんが、古本界において木谷恭介氏の編著書の中で最も珍重されるのは、どうやら『地獄大図鑑』のようです。

以上、あらましなプロフィールですが、『ファッツトルコ』を購入した当時はもちろん、じつはつい今しがたまで、木谷恭介氏が推理作家であるということを、私は知りませんでした。
勉強不足が露呈します。
一夜漬けの塩梅で作家の経歴を調べ、調べるまで、今までずっと、きたにきょうすけ、と読んでいました。

参考
*『日本ミステリー事典』権田萬治・新保博久監修(新潮社/2000)
*「木谷恭介」/フリー百科事典〈ウィキペディア〉
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日記の冒頭で述べている御夫婦との交流については、前日の日記(2012年2月24日)に記してありますけれども、参照するほどの記述ではありません。
そもそものきっかけは『古本年鑑』が仲立ちになったわけなのですが、ときに古本は思いがけない活躍をするものです。