【2012年3月23日】
東京古書会館の趣味展へ。
朝一番の扶桑書房の棚、30分ほど荒波に揉まれて水谷勝抒情小詩『宝石の夢』(尚文堂書店/大正10)800円。
訪書堂書店の棚からは、パンダ煙草のパッケージが愉快な『タバコのデザインと収集』田中冨吉(主婦と生活社=タウンブックス/昭和48)100円。著者の田中氏は専売公社に長く籍を置いていたそうだが、もともとは本郷洋画研究所を経て杉浦非水に師事、と略歴に記してあった。
もうひとつタバコ、『たばこ物語』寺田文治郎(隆鳳堂書店=ネオンブックス/昭和36)100円。こちらの著者の名は見覚えがあり、たしか『ホルモン博士随筆』ではなかったか。
波多野書店にて『わが百鬼園先生』平山三郎(六興出版/昭和54)500円。
銀装堂では『おいしい蜂蜜お菓子』関口せつ(養蜂技術協会=月刊ミツバチ双書/昭和25)300円。蜂蜜のお菓子作りに挑戦してみようという意気込みはないのだが、〈月刊ミツバチ双書〉という双書名にぐッときてしまった。発行所の所在地は北海道農業試験場。この『蜂蜜お菓子』はミツバチ双書の第4集で、さらに近刊として予告されている第5集、第6集のほかにも逐次刊行とある。30ページ足らずの簡素な小冊子ながら、養蜂の集大成を目指すと言うような「刊行のことば」もあり、理想は高邁だ。
もういちど訪書堂書店から『製本ダイジェスト』牧経雄(印刷学会出版部/昭和47/第5刷)100円。以前に買った『印刷ダイジェスト』の姉妹篇のようだ。
ぶっくす丈の棚では『幻島の謎』今野不二男(現代教養文庫/昭和47)200円。「幻島」の文字に魅かれて、教養文庫のなかではずっと気になっていた1冊。やっと出くわした。
紅谷書店でキング昭和6年新年号附録『明治大正昭和絵巻』(大日本雄弁会講談社)500円。揮毫画伯の顔ぶれは、小村雪岱、岩田専太郎、河野通勢、細木原青起、田中比左良、谷脇素文など。
古書会館を出ると、外はまたしても雨。
3月の神保町の金曜日はほとんど雨降りだ。
ミロンガで珈琲を飲み、古書モールと古書かんたんむを一周して早めに切り上げる。
夕方からは近所の日帰り温泉に出かけ、湯舟に浸かりながら、趣味展では『茨城の鉱泉めぐり』を買っておけばよかったかな、と思う。いちど思い始めると、物凄く欲しくなってきてしまって、湯舟のなかでうろたえる。
【2023年10月追記】
古本は、見かけたときに買っておくべきなのです。
また今度にしよう、というその今度が訪れるという保証はどこにもありません。
しかし時には、その今度が案外と早く訪れたりもして、そこに油断が芽生えます。
どうしてあの本を買っておかなかったのだろう。
購入を見送った本が、じつは珍しい本だったと知ったときには落ち込みます。
家に戻ったあとになって、やっぱり欲しくなってきて、今すぐ買いたいと熱望しても如何せん。悶々とした夜を過ごす羽目になります。
買わなかった本の巨大なマボロシは、頭一杯にふくれあがります。すべての買い求めた本を押しのけるほどに。
『茨城の鉱泉めぐり』のマボロシを振り払うことはできず、この翌日、趣味展を再訪します。
◇
「神保町古書モール」と「古書かんたんむ」は、三省堂書店神保町本店に隣接する雑居ビルのなかにありました。
古書モールが5階、かんたんむは4階。
両店とも複数の古本屋さんが棚を分け合って出品しており、種々雑多に入り乱れ、階上の雑本天国でした。
2022年から23年にかけて、三省堂書店の建て替えに伴い、本店ビルもろとも雑居ビルも取り壊され、もはや当時の面影はありません。