【2012年3月16日/2023年10月追記】『アメリカの横ッ腹』を買い給えと天の声は言う

【2012年3月16日】
南部古書会館、五反田遊古会。
1階の廉価本から『くんぺい少年の四季』東君平(PHP研究所/昭和49)200円。
後年に刊行された新装版は持っているが、これは元版で装幀が異なる。君平さんの文章を集成した『東君平著作集』が実現しないものかと、ずっと待っている。様々な雑誌に掲載されて、その後の単行本には収録されていないエッセイなど、まとめて読んでみたい。

2階。
200円均一棚から『みそ汁風土記』川村渉/松本恵美子(全国みそ連合会/昭和40)。
月の輪書林の棚では『女性解体』丘春美(青々文庫/昭和22)1000円。小さくて薄くて軽い本だが、戦後の解放感を満喫しているような、妖しい活気が漲っている。青々文庫の所在地は大阪。著者も版元も、また発行兼印刷人の奥一なる人物も、まったく知らない名ばかりだ。

丘春美「女性解体」表紙
『女性解体』丘春美(青々文庫/昭和22)

九曜書房の棚から『第2弾・粋筆のぞき日記』森三助(東京スポーツ新聞社/昭和54)500円。第2弾とあるのだから第1弾もあるのだろう。
アンデス書房、1月の五反田遊古会で遭遇した漫画漫談『アメリカの横ッ腹』10000円は、結局は買い手がつかなかったようで、今回の目録にも出品されていた。それでも注文は入らなかったようで、今日もまた会場の書棚に並んでいる。買うつもりはないけれど、顔見知りのような親しさで手にとってページを繰っていると、買い給え、と天の声が降ってきたので『アメリカの横ッ腹』宍戸左行(平凡社/昭和4)10000円、買うことにした。多分、そんな声が聞こえるはずはなかったのだろうけれど、聞こえてしまったのだ。
最後は200円均一棚に戻ってヤマト科学器械の『理化学器械目録』第16号(昭和29)を買い足す。何に使う器械なのかほとんど判らぬが、判らなくても図版が美しい。
会計の際、すばやく値札を剝がしていた当番氏の手が『アメリカの横ッ腹』ではたと・・・止まった。値札の数字にぐッと眼を近づけて、それから「これ1万円ですよね?」と私に向かって問う。私は「はい」と答える。売り手と買い手が逆転したような言葉が交わされて、なんだか可笑しい。0の数をひとつ間違えたと思われたのだろう。「1000円かと思った……」、今度は独り言のようにつぶやいたのは、つまり「(私の風采に見合った金額は)1000円かと思った」という言外の意が含まれていたのかもしれない。それは、的確な値踏みだった。しかし天の声には逆らえないのだ。

宍戸左行「アメリカの横ッ腹」表紙
『アメリカの横ッ腹』宍戸左行(平凡社/昭和4)
*パラフィン紙が掛かっています

神保町に移って東京古書会館の愛書会。
『静岡県漫画めぐり』宮尾しげを画/静岡県観光協会編(静岡県/昭和26)315円、購入1冊。
このところ訪れると雨降りばかりの神保町だったが、ようやく今日は雨が降らない。久しぶりに田村書店の店頭の、100円均一段ボール箱を掻きまわして『天才と女神』オールダス・ハクスレー(野草社/昭和58)。
神保町交差点を渡った先の岩波ブックセンターで『日本古書通信』2012年3月号(日本古書通信社)700円。たまには新刊も買う。

宮尾しげを画「静岡県漫画めぐり」表紙
『静岡県漫画めぐり』宮尾しげを画/静岡県観光協会編
(静岡県/昭和26)

【2023年10月追記】奮発
高額の本は、そう滅多には買えません。
しかし、たまたま手持ちがあったりすると、ごく稀には思い切って奮発します。
巡り合った本と、懐具合と、気分と、何かの拍子に種々の条件がぴたりと揃う。
そういうときにはたしかに、天の声が聞こえてくるのかもしれません(?)。
後先についてはひとまず忘れて、購入へと傾くわけです。
冷静になって振り返れば、魔が差す、と言えないこともなさそうですが、買えばとにかくすっきりします。
心身が軽くなります。財布もいよいよ軽くなります。

〈関連日記〉
高額の本を買うことについて、以下の日記の追記欄に若干の記述があります。
【2010年11月11日/2023年2月追記】ささま書店で『谷中安規の夢』