【2012年6月10日】
葉山の神奈川県立美術館に〈松本竣介展〉を見に行く。
京浜急行新逗子駅からの路線バスが細い曲がり道を抜けると、車窓に海が広がる。
《Y市の橋》や《運河風景》など、ようやく松本竣介の絵をまとめて見ることができた。感無量。
分厚くて頑丈な図録は2300円。この展覧会は、11月には世田谷にも巡回するそうなので、また行ってみたい。
美術館の中庭から海を眺める。青空と夏の雲、おだやかな相模湾の波のきらきら。カップ酒を用意してくればよかったなと思う。
海辺の風光も悪くはないが、そろそろ古本の虫が……。
快速特急で川崎へ。
午後3時、今日は莨を吸ったきり水も飲んでいないのでちょっと眼がまわる。しかしまずは古本だ。
近代書房。
サンリオSF文庫のカバーイラストを集めた大判の画集が9000円。さすがにこれはオテアゲとしても、平凡社版『野田英夫画集』5000円は、もしまだ持っていなかったら、うつくしい絵を見てきた直後だけに、奮発していたかもしれない。
現代歌人文庫『続春日井建歌集』(国文社/2004)300円を買う。
昔、競馬場に行ったことがあるくらいで、川崎の町を歩いたことはほとんどなく、川崎の古本屋も、この近代書房が最初の探訪となった。
古本屋を訪れて古本を買えば、その町は急に身近になる。
少し先に朋翔堂。
入店してすぐの棚で、東郷青児『私の奇妙な友人たち』(山王書房/昭和42)を見つける、500円。
『私立探偵高須賀エリカの事件簿』神楽陽子(二次元ドリームノベルズ/2009)は官能ノベル。歴とした成人用で、表紙にはそのマークも附されているが、一般のミステリーの棚に並んでいた。450円。
エロホンを集めた部屋に這入ると、その奥の棚は、エロに包囲されながら、重厚な造本の市史や町史が数十冊も同居しており眼のやり場に戸惑う。
駅に戻る途中の居酒屋でホッピーと焼鳥。旨いなあ!
今日はこれで仕上げるつもりだったのだが、ホッピーの馬力がついたところでもう1軒、ブックスマッキーを探訪。
『ヨーロッパ鉄道旅行(Ⅲ)スイス・フランス』植田健嗣(カラーブックス/昭和60)210円と、それからベスト新書のセックス・シリーズ、『言葉責めセックス』小澤マリア(ベスト新書/2011/2刷)、『三十路セックス』川奈まり子(ベスト新書/2009)、各315円を手にとったのは、ホロヨイが手伝っていたのかもしれないが、たぶん酔っていなくても買っていたのだろう。
【2024年2月追記】近代書房/朋翔堂/ブックスマッキー
この日、初めて川崎駅周辺の古本屋を歩きましたが、以後は機会をつくらぬまま10年以上が過ぎてしまいました。
「近代書房」は現在も営業を続ける川崎の老舗古書店です。
川崎駅東口から大通りを歩いて7、8分。創業は昭和21年とのことです。
店頭から店内まで、とにかくびっしりと本で埋め尽くされていたと記憶します。
珍しい本にはきちんとした値段が付いていたようですが、思わぬところに思わぬ掘出し物が紛れこんでいるかもしれないと、そんな期待を大いに抱かせてくれるお店でした。
古書の匂いを、思う存分に吸い込めます。
「朋翔堂」は2023年5月に閉店となりました。
近代書房から、もう少し進んだ先に店舗がありました。
雑本の集積所と云うような、硬軟自在の棚でした。雑本は胸が躍ります。
強く印象に残るのはエロ本の部屋です。
その品揃えの充実ぶりには目を見張りましたが、エロに取り囲まれていた市史や町史の一群は、いかにも幽閉と云うような、今なお忘れ難い異景でした。
その後の運命は知る由もありませんが、もし当時のままに押し込められていたとしても、お店が閉店してしまったわけですから、ついに明るみへ解放され、市場に運び出されて、現在は然るべきところへ然るべき面持ちで納まっているのかもしれません。
「ブックスマッキー川崎店」は現在も営業しています。
駅前の繁華街の一角にあり、近代書房からはほんの数分の距離です。
店内の様子など、はっきりしたことは覚えていないのですが、たしかこのお店もエロ本の蔵書が豊富でした。
一時期は東横線元住吉駅の近くに支店「元住吉店」があったようですが、現在は川崎店のみでの営業です。
なお、近代書房とブックスマッキーは、ともに全古書連(全国古書籍商組合連合会)加盟店です。
探訪当時は明確に認識していなかったのですが、川崎の古本屋さんと言えば、近代書房、朋翔堂、ブックスマッキー、これら3軒で一組と数えるような古本屋三角地帯だったようです。あるいは三羽烏でしょうか。
そのうちの1軒「朋翔堂」の閉店は淋しいですが、残り2軒の現存は頼もしいです。
JR川崎・京急川崎駅前の岡田屋モアーズには「ブックオフ SUPER BAZAAR 川崎モアーズ店」があります。店舗は3階と6階。古本は3階です(6階は洋服やブランド品)。