【2012年9月24日】
雨降りの日曜日が終わって、今朝はすっきり青空。
さて新橋古本市に出掛けようかどうしようか、週末の西部展のあとに足を延ばすつもりでもあったのだが、朝刊の天気欄を見ると明日からはまた傘印がちらほらするし、台風も近づいている。
屋外の古本市は行けるときに行っておいたほうがよい。前回(7月)の開催も、何だかんだと言いながら結局は初日に出掛けているのだから、こうなることはおよそ感づくはずなのだが、どうしてまごまごするのだろう。
SL広場に到着して新橋古本市。思ったよりも日差しが強い。
宝くじ売場の大音量が、執念深く一攫千金をそそのかす。
一攫千金、一攫千金、一攫千金! 正午の汽笛がポー。
揚羽堂のテントにて『滑稽百話笑門福来』名波芝蘭(川流堂小林又七本店/大正2/再版)1000円。表紙で大笑しているのは太り肉の漱石か?
例の如く、著者の名波芝蘭は見たことも聞いたこともない名前だが、久保天隨が漢詩の序を寄せている。天隨先生は自身でも『百笑話』を書いているから、何かそのあたりのつながりがあるのかもしれない。
三崎堂書店から『国鉄郵便・荷物気動車の歩み』千代村資夫(ネコ・パブリッシング=RM LIBRARY/2001)上下2冊で800円。
以上3冊、13時半まで。
銀座線から井の頭線に乗り継いで駒場東大前に寄道。
駅前に河野書店という古本屋があることを、このあいだ今柊二氏の『定食と古本』を読んで初めて知った。
それまで知らずにいたとは迂闊な話だが、ついでに駒場の辺りは渋谷区ではなく目黒区であるということも、駅を降りて電柱の表示を見て初めて知った。
井の頭線が目黒区を走っていたとは思いのほかだが、それでたぶん、23区別に編集されている『全国古本屋地図』で沿線の古本屋を調べた際に、駒場東大前が死角になってしまったのだろう。
河野書店、前庭のようにゆったりとした店頭に、100円、200円、500円の均一棚や、絵本、児童書、さらには洋書の棚が配置され、これだけでも見応えがある。
鉢植えの植物と蚊取線香のけむり。蚊に喰われた脛をポリリと掻く。
店舗に足を踏み入れれば、帳場に座る初老の御婦人と、大きな書棚にすっきりと配架された書物の佇まい。古本屋と云うよりは図書館を思わせる。洋書が目立つ。
通路に積み上げた未整理の本も、どことなく行儀がよい。
『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ(ちくま文庫/1995)500円。初めて降りた駅の、初めて訪れる古本屋では、やはり何か買いたかった。
これでなかなか、遠出の気分なのだ。ちょっと呑みたくなってきた。
井の頭線に乗って、そのまま終点の吉祥寺へ。
いせや。午後の焼酎と、このところ電車読書に持ち歩いている『聊斎志異』を読みながら、狐の化けた美女がとなりに座って、にっこり微笑みかけてくれぬものか、と妄想に耽る。
ホロヨイになったところで、今日は久しぶりによみた屋へ行ってみる。
『季節を楽しむご飯もの』野口日出子(中公文庫ビジュアル版/1996)、『可愛い仔猫』田中光常(教養カラー文庫/昭和51)、50円の文庫本を2冊と、それから何となく古本で探していた『パンダ』R&D・モリス(中央公論社=自然選書/昭和51)500円を見つける。
著者のモリス夫妻は、平凡社ライブラリーに『人間とヘビ』という著作もある。
【2024年9月追記】日本古書通信社『全国古本屋地図』に於ける東京23区の境目についての前時代的な雑感
「河野書店」は現在も営業しています。
所在地は目黒区駒場1-31-6。井の頭線の駒場東大前駅を降りてすぐの場所です。
駅には西口と東口と、ふたつの出入口がありますが、どちらから降りても100メートルほど。
初探訪のこの日は東口から行ったような覚えがあるのですが、道に迷うというほどではないにしても、この先に古本屋さんがあるのか少々不安になったような、かすかな記憶がよみがえります。
西口からのほうが分かり易いようです。駅に沿って渋谷のほうへ歩けばまっすぐです。
「新橋古本市(新橋古本まつり)」は歴史ある古本市として年4回の開催を続けています(2024年は3・5・9・11月)。
「よみた屋」も吉祥寺の地で盛業中です。
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日本古書通信社発行の『全国古本屋地図』は、古本屋めぐりをする際の必携書でした。
眺めるだけも夢がふくらむ書物ではありますが、実用に際して、強いて難点を挙げるとすれば、『地図』とは言い条、地図の掲載が主要駅周辺に絞られていること、及び各店舗の紹介が市区町村ごとに分けられていることでしょうか。
もちろんこれらは無い物ねだりみたいなもので、全店舗の地図を載せたとしたらページが膨大になって持ち歩きに堪えなくなりましょう。
市区町村別で分類することなど、むしろ当然と言えそうですが、鉄道路線別ならばもう少し使い勝手がよさそうだな、と思うことはたびたびありました。
上記、目黒区の河野書店などはその好例です。井の頭沿線でまとめられていたとしたら、探訪の時期はもっと早まっていたかもしれません。
自らの調べ方の詰めの甘さを棚に上げていますが、東京23区は区と区の境目が入り組んでいてとてもややこしい。
そこへもってきて鉄道駅が絡んでくると、たとえば品川駅が港区で、目黒駅が品川区であるということは割合に知られていると思われますが、板橋駅はその三方に板橋区、北区、豊島区が接していたり、東急東横線はいったい何区と何区を走り抜けているのか、『全国古本屋地図』をめくりながら、どこのページを見れば目指す駅周辺の古本屋さんが載っているのか、ついに頭は渋滞します。
路線別なら利便性は増すとは云え、ふたつの鉄道路線の中間あたりのお店はどうするのか、結局は新たな混乱を招くことになりそうですが……。
店舗紹介を市区町村で分けることによって起こる面倒は、編集方針に難があるわけではなく、どこかで境目を決めなければ円滑にやっていけないというその境目を、やたら難解に線引きする人間社会の仕組みに無理があるのかもしれません。
大きな川の鉄橋を渡るときはまだしも、そもそも普段、電車やバスに乗っていて、「今杉並区に入ったな」とか、いちいち区界を認識する場面はあまりないと思います。
贅言を費やしました。
昭和52年の初版以来、続々と改訂を重ねてきた『全国古本屋地図』も、2001年発行の21世紀版を最後にその役目を終えました。
インターネットの普及、特にグーグルマップの登場が時代の大きな変わり目だったのでしょう。
冊子体の地図帳に慣れ親しんだ者にとって、グーグルマップはまったく驚異的な地図でした。
「本屋」と尋ねてみれば、たちどころに各線各駅の本屋さん古本屋さんを教えてくれる。
横滑りに画面をずらせば、区界などものともせず、すいすいです。
魔法書店地図と称して、せいぜい活用しておりますが、ときには既に閉店しているお店が現存するかの如く表示されたり、張り切って出掛けてみたら店売りなしの事務所営業の古本屋さんだったり、魔法とはいえ全知全能というわけではなさそうです。