「古書目録」とは、古書の販売カタログです。
古本まつりに合わせて発行する合同目録、古本屋が独自に発行する自家目録、などがあります。
東京にある3つの古書会館で開催される古書即売展でも、会場販売と合わせて古書目録が発行されることがあります。
「和洋会古書展出品抄」、「ぐろりや会古書目録」、「西部古書展出品抄」、「五反田遊古会古書販売目録」……各即売展によって、それぞれの目録が発行されます。
ここでは、古書目録の入手方法から始まって、読み方、注文、購入まで、一連の流れに沿って説明しています。
古書即売展をさらに楽しむために、「古書目録」の世界を覗いてみませんか?
1 古書目録を申し込む
まずは「古書目録」の送付を申し込みます。
多くは無料で送ってくれますが、送料が必要な即売展もあります。
東京の古書会館の即売展で、古書目録を発行している即売展は以下のとおりです。
- 東京古書会館……愛書会、趣味展、和洋会、我楽多市(*2022年7月で休会)、書窓展、ぐろりや会、城南展(*2022年10月で目録休刊)、下町書友会、新興展、特選古書即売展、東西吉祥会。
- 西部古書会館……西部展、古書愛好会(*2023年6月より高円寺優書会に名称変更)。
- 南部古書会館……五反田遊古会、本の散歩展、五反田古書展。
申し込み方法は次の2つです。
a 古書即売展の会場で申し込む
即売展会場の帳場で「次回の目録を送ってください」と伝えましょう。
用紙を渡してくれますから、送付先を記入して提出すればOKです。
私の経験ですと、会場で目録申し込みをした際に送料を請求されたことはありませんでした。
b 即売展の事務局に申し込む
古書組合のホームページ「日本の古本屋」のなかの「古本まつりに行こう」のページを見ます。
開催中および開催予定の古本まつりが、日付順に並んでいます。
古書目録を発行する古本まつりは、各欄の右端に「目録あり」の印があります。
「古書愛好会」、「趣味の古書展」など、目録を送ってほしい「古本まつりの名称」を選んでください。
地図の下に「内容他」の項目があり、目録の請求方法が載っています。
送料が必要な場合も、「切手140円分」など、ここに記されます。
「内容他」の下には「即売展目録」の項目があります。
目録担当の古本屋さん(事務局)の連絡先が載っていますので、そちらへお申し込みください。
住所のみが記されている場合はハガキで申し込みます。
送料が必要な場合は封書になります。必要分の切手の同封を忘れませぬように。
古書即売展は各会によって参加店が異なります。
古書目録の申し込みも、各会それぞれ、個別に行ないます。
古書即売展の会場では、会期中の目録や、次週の目録を配布していることがあります。
会場へ行く機会のある方は、まず手始めにそれらをもらってみるとよいでしょう。
眺めているだけでたのしいです。
残部を配布するという形ですので、すぐに無くなってしまうことが多いのですが……。
もし目録が置いてあったら、ぜひ手に入れて帰りましょう。
2 古書目録が届く
古書目録が届くのは、会期の10日前から1週間前くらいです。
郵便受けに目録が配達されていると、なんとも気分が明るみます。
はやる心を抑えつつ。
会期当日に会場へ行く予定のある方は、目録が入っていた封筒(袋)を捨てないようにしてください。
即売展の会場では、送付した目録の封筒(袋)を回収しています。
目録発送名簿などの資料にするためです。
回収の箱もしくは袋が用意してありますから、宛名のシールを剝がさずに、そのまま入れます。
会場の回収箱に封筒を入れるか、あるいは目録から注文をすると、次回の目録も送ってくれます。
しかしこれは必須というわけでもないようで、封筒を忘れたり、注文をしなかったりしても、しばらくのあいだは送り続けてもらえるようです。
3 古書目録の見方
古書即売展目録のほとんどはA5判(新興展のみB5判)。
参加店の数によって差はありますが、30~50ページくらいの小冊子です。
お店ごとに分かれていて、上下2段組で、1ページにおよそ50点。
30ページでも約1500点が掲載されますから、結構な読みごたえがあります。
写真図版(会によってはカラー版)が載っていることもあります。
さっそく目録を見ていきましょう。
ページ上欄に、出品店名とその連絡先があります。
古書目録は縦書きです。上から順に、
1・出品番号
2・品名(本のタイトル)
3・函やカバーの有無、本の状態など
4・著者名、出版社名
5・発行年
6・販売価格
という感じで記されています。
仮に例を挙げると、次のようになりますでしょうか(実在しない書物です)。
1201 古書即売展の歩き方 初版 カバー帯 少ヨゴレ 古山本之介 昭58 1,500
(*実際は縦書きです! 出品番号と販売価格の数字は漢数字です!)
だいたいお分かりいただけるかと思いますが、読み解きますと、
出品番号1201は、古山本之介という人が書いた『古書即売展の歩き方』という本。
初版で、カバーと帯は備わっているが、少し汚れがある。
発行年は昭和58年、販売価格は1500円。
と、なります。
古書即売展の価格表示は、目録、会場販売とも、すべて税込みです。
実際の目録での出品番号と販売価格は、英数字ではなく漢数字です。
「一」「二」「三」が縦書きになると、ちょっと紛らわしいです。
ご注文の際は見誤らないようお気をつけください。
一番上とその次、「1・出品番号」「2・品名(本のタイトル)」、
それから一番下の「6・販売価格」。
この3項目の位置は決まっています。
「3・函やカバーの有無、本の状態」
「4・著者名、出版社名」
「5・発行年」
残りの3、4、5の項目となると、どこに記すかはお店によって違ってきます。
著者名が先にあったり、発行年と価格のあいだに状態が記してあったり、いろいろです。
すべての項目が記載されないこともあります。
さらに、
「本のサイズ」。A4、新書判、大判など。
「本のページ数」。
「補足説明」。
などを附記する場合もあります。
古書目録には独特の用語がいくつかあります。
最低限ではありますが、割合によく見かける用語をまとめておきました。
古書目録用語ミニ辞典
【函】 本体を収める函が備わっている。「箱」「凾」とも表記。
【カバー】 カバーが備わっている。「カバ」あるいは単に「カ」とも。
【帯】 帯が備わっている。
【欠】 欠けている(備わっていない)こと。「函欠」とあれば、もともとは備わっていた外函が無いということ。
【裸本】 函もカバーも無い本体のみの本。函やカバーが欠けているのか、それとも元から函もカバーも無かったのか、判断できない場合もある。
【ヨゴレ】【イタミ】【ヤケ】【シミ】【スレ】【ヨレ】【ヤブレ】 本の(悪い)状態を表わす言葉。「表紙少ヤケ」とは表紙が少し日焼けして色褪せている本のこと。「汚れ」「痛み」「傷み」など、表記はさまざま。
【署名】 著者の署名(サイン)入り。「献呈署名」の場合は、献呈する相手の名も記してある。
【記名】 著者ではなく、前の持ち主の名が記入されている。
【印】【蔵印】【蔵書印】 蔵書印など何らかの印が捺してある。
本に付帯する情報は詳細に越したことはないのですが、目録では基本的には1冊(1点)につき1行と、場所がかぎられています。
詳しく書けば書くほど、文字がどんどん小さくなってしまうという難点があります。
そのあたりの匙加減は、出品する店主さんのお人柄によるのでしょう。
古書目録の表記法は、ほんとうに、お店によってすべて違います。
面白いです。本よりも目録のほうが面白いと思えることさえあります。
入念に読み込んで比較分析すれば、それだけで『古書目録文体論』なんていう書物ができあがりそうです。残念ながら私はそのような読解力を持ち合わせませんが。
話がそれました。目録に戻りましょう。
4 古書目録から注文する
欲しい本が見つかったら、さっそく注文です。
目録注文は、出品するお店ごとに行ないます。
同じ目録からでも、複数のお店に欲しい本があるときは、それぞれのお店に注文の申し込みをします。
(ぐろりや会など、まとめて注文できる即売展もあります)
注文方法については、多くのお店が、
ハガキ、FAX、メール
いずれかを指定しています。
目録のページ上欄、店名と連絡先に添えて「ご注文はハガキ・FAX・メールで」などと記してあります。
基本的に、電話での注文はできないと考えてもよいかもしれません。
電話注文を受け付けるお店もあるのかもしれませんが、例外と言えるのではないでしょうか。
はっきり「電話不可」と断わっているお店もあります。
電話から口頭での注文になりますと、番号や書名などの、言い間違い、聞き間違いが起こることが考えられます。
また、録音でもしておかないと、注文の証拠が残りません。
後々、思わぬトラブルを防ぐためにも、何らかの形で文面を残しておくことが望ましいわけです。
あるいは個人経営の古本屋となると、店主さんがお店(事務所)に不在のこともあり、電話への対応が難しいということもあるのでしょう。
すぐに電話で、一刻でも早く申し込まないと売約済みになってしまうのではないか……。
と、心配されるかもしれません。
しかし古書即売展の目録注文は先着順ではありませんから、その点は大丈夫です。
注文が重複した際は抽選となります(抽選については次項「5」をご覧ください)。
古書目録からの注文は、会期の前々日くらいに締め切ることが多いようです。
先着順ではないとはいえ、目録が届いたら、なるべく早く申し込んでおきましょう。
手っ取り早いのはもちろんメールですが、なかにはメールのないお店もあります。
これを機会に、久しぶり、あるいは初めて、ハガキを書いてみるのも一興かもしれません。
手間はかかりますが、欲しい本を想像しながら注文のハガキを書いていると、何だか気分が高揚するという思わぬ効果があります。
古本世界では、今なおハガキが活躍します。
ちなみに現在、ハガキの郵便料金は63円です。
さて注文にあたっては、
・出品番号、品名(本の題名)。
・受け取りの方法。来場か発送。
・郵便番号、住所、氏名、電話番号。
を明記します。
即売展の会場で受け取る「来場」か、送ってもらう「発送」か、どちらかを忘れずに記してください。
ハガキの場合、宛て先は出品店になります。
古書会館宛てではありませんので、ご注意ください。
注文が終わりました。
あとは本を受け取るだけ……だと嬉しいのですけれど、目録注文にはもうひとつ山があります。
5 注文重複品は抽選、さてその結果は?
古書目録から注文した本が必ず手に入るとはかぎらないのです。
2人3人と、注文が重複した場合は抽選となります。
珍しい本、相場よりも安い本、やはりこれらは注文が集中するでしょう。
どのような抽選が行なわれるのかは、うかがい知ることができません。
いつも注文する常連さん、あるいはたくさん注文した人、そういう人が優先されるのでは、と、つい勘繰ってみたくもなるのですが、それを言っては始まりません。
これはもう、運を天に任せるよりほかはないようです。
当日の即売展の会場に行った場合は、帳場で目録から注文した旨を申し出ます。
当たっていれば、その場で注文した本を手渡してくれます。
発送をお願いした場合は、会期終了の3、4日後には届くでしょう。
早く結果を知りたいときは、会期中の会場に電話をして問い合わせれば、当否を教えてくれます。
その際は、注文先の店名、目録のページ数、出品番号、書名、注文者の名前を伝えてください。
抽選。
これがありますから、目録注文をしたあとは、ほんとうにどきどきします。
祈るような気持ちです。
私などは、たまにしか目録注文をしないので、確率というほどではありませんが、「アタリ」と「ハズレ」は、まあ半々くらいと言ったところでしょうか。
「ハズレですね」とか、「違う人ですね」とか告げられた時には、まったくがっかりです。
しかしそれだけに、注文した本が無事に手に入った暁は感無量です。
はたして、目録注文必勝法があるのかどうか。
ご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてほしい!
いや、そんな奥義をやすやすと教えてはもらえないでしょう。
ハガキやFAXで注文するならば、相手が読みやすい文字を書くことを精一杯に心がけましょう。
出来ることはそれくらいですか。
そこから先は天神様の言うとおり。
どうぞ、古本の神様がほほ笑んでくださいますように。
6 購入!
めでたく注文品が当選となったら、いよいよ購入です。
即売展会場へ行った場合は、注文品を最初に受け取ってから会場を見てまわってもよいですし、反対に会場を見終わったあとで、最後に受け取っても、どちらでもかまいません。
注文品と会場の販売品は、一緒に会計ができます。
注文した本は必ず購入します。
目録の表記と著しく異なっている場合。
たとえば「少ヨゴレ」とあった本が、実際は見るも無残に汚れている本だったり、あるいは、表記のなかった落丁や乱丁がある場合。
万が一そのような時は、遠慮せずに出品店の店主さんと交渉してみてください。
返品も可能だと思います。
ただし、そうじゃなかったら……自分が思い描いていた本と何となく違うとか、やっぱり欲しくなくなったとか、ただそれだけの理由でキャンセルするのはいけません。
注文した以上は、責任をもって引き取ってください。
失敗だったと悔やむこともあるかもしれません。私はあります。
しかし失敗をすることによって、古本の眼力は間違いなく上がるでしょう。
これも勉強です。
勉強ですけれど、遊びの勉強です。
古本の道に終着点はありませんから、失敗も糧にしながら、楽しく学んで行きましょう。
(楽しいなどと言えないほどの出費に涙をのむこともあるかもしれませんが、それもやはり長い長い古本遍路のおつとめのひとつではないか、と)
「発送」をお願いした場合。
出品店からの包みが郵便受けに届いているのを見つけた瞬間は、まったく天にも舞い上がる心境です。
注文した本と一緒に請求書や振込用紙が入っています。
もしくは代金引換や前払いなど、お店によって支払い方法は異なりますので、お店からの指示に従ってください。
なるべく早く代金の支払いを済ませてすっきりしたら、手に入れた本の中へ没頭しましょう。
もちろん発送の場合も、余程のことがないかぎり、注文した本は引き取ります。
7 古書目録は面白い
即売展の古書目録について、長々と述べてまいりましたが、目録からの注文をほとんどしない身としては、分不相応でもありました。
ずいぶん偉そうに語ってしまったようでもあります。
ただそれでも、古書目録の魅力を、ぜひ知っていただきたいと思うのです。
世の中にはこんな本があって、これくらいの値段で売られている。
小さな冊子ではありますけれど、それはまた、古本の教科書でもあります。
ひとりで居酒屋へ行って、お酒を飲みながら古書目録をめくる。
至福のひとときです。
東京古書会館、西部古書会館、南部古書会館。
東京の古書会館にはなかなか行けないという方も、どうぞ即売展の古書目録を取り寄せてみてください。
インターネットでいくらでも古本を買える時代ではありますが、目録には独特の臨場感があります。
古書目録は全国共通の古書即売展です。
あなたの古本生活に、目録散歩もぜひ!