古書会館の古書即売展に行ってはみたいけれど……なぜ探訪をためらってしまうのか?

古書会館の古書即売展に、いちどは行ってみたいけれど……。

そう思いながら、ためらってしまう人もいるのではないでしょうか。私がそうでした。
何となく不安。何となく怖い。
「何となく」というのは、漠然としているようですが、案外とクセモノです。
漠然としているだけに、うまく取りのぞけない。つい先延ばしにする。

どうしてためらってしまうのか?
ひとつの実例として、まずは私自身が躊躇していた理由を振り返ってみます。
私の場合は、大きく2つの不安にとらわれていました。
さらに加えて、「女性のお客さんは少ないのでは?」という項目を設けてあります。
合わせて3つの不安について述べてみました。

行ってみたいけれど、なかなか行動に移せない。
ほんの少しでも、そういう人たちの参考になれば、と思います。
結論はただひとつ。

古書即売展は怖い所ではありません!

無用な思いわずらいは、早いところ解消してしまいましょう。

古書即売展の探訪をためらう理由

古書即売展の存在を知ってから、初めて探訪するまで、私は20年ほどかかりました。苦笑。
いくらなんでも、ぐずぐずしすぎです。悪い例です。
じつは、存在を知ったと言っても、そういう催し物があるらしい、と言った程度のものでした。
当時の私は、古書会館がどこにあるのか、古書即売展がいつ開かれるのか、肝心な情報すらつかめていなかった。
これではどうしようもありませんね。
もっとも、まだその頃は、近隣の古本屋めぐりだけでも充分にたのしめていたという背景もあります。
ただ、古書即売展の存在を薄々とは知りながら、それでも最初の一歩を踏み出せずにいたのは、場所や日程を知らないことだけが理由ではなかったようです。
なぜ古書即売展の探訪をためらっていたのか。
思い起こしてみますと、大きく2つの不安が邪魔をしていました。

  1. 古本の初心者が行く所じゃないのでは?
  2. 貴重な本、高額な本ばかりが並んでいるのでは?

つまり、何となく怖そう。
それで、ためらう。
1も2も、答えはイイエです。
古書即売展の会場に行ってみれば、それらの不安はたちどころに消えて無くなります。
ずいぶん余計なところで、ぐずぐずしていたものです。

1 古本の初心者が行く所じゃないのでは?

そんなことはありません。
当たり前すぎますけれど、最初から常連やベテランの人はいません。
誰でも最初は一見の客、初心者です。
それはそうなのですが、何も知らなかった当時の私はまずここでつまずく。

頭の中で古書即売展を想像して、そこに集まるお客さんの客層を、つい思い浮かべてしまうわけです。

マニア、コレクター、研究者。

これら筋金入りの愛好家が寄り集まって、一種の社交場とかサロンのような雰囲気で、初心者の居場所などはどこにもないのではないか。

今となっては、笑ってしまうほど、まったくの思い過ごしでありました。
会場の様子はデパートなどの古本まつりとほとんど同じです。
館内放送やBGMは流れませんので(まれに流れていることもあります)、図書館の雰囲気に近いと言えるでしょうか。
気軽に本を探せるという点では、ブックオフとも大差はありません。

知り合いと情報交換をしたり、古書談義を交わしたりしている人もいますが、本を探すのは、基本的には一人です。
皆さんそれぞれ、自分自身のやり方で、書棚と向き合っています。
もちろんその中には、マニアもコレクターも研究者もいるでしょう。
それだけではなく、プロ、つまり古本屋さんもお客さんとして訪れます。
安く売っている本を見つけて、自分のお店の商品として仕入れているようです。
多士済々、いろいろな所から、いろいろな人たちが訪れます。

しかし、ひとたび会場に入れば、身分、肩書き、一切関係なし。
優先順位はありません。
大臣であろうと高校生であろうと、全員が等しく「古書即売展のお客さん」です。
通い続けて半世紀の人も、今日が初めての人も、「古書即売展のお客さん」です。

2 貴重な本や高額の本ばかりが並んでいるのでは?

そんなことはありません。むしろ安い本が中心。
なのですが、何も知らなかった当時の私は、ここでも要らぬ想像をする。

会場に並んでいる本は、初版本、稀覯書、世にも珍しい本ばかり。
いずれも価格〇万円、ときには○○万円、などと。

私の場合、どうやら「古書即売展」の「展」の字に引っかかっていた節があります。
美術展、回顧展、国宝展。
「展」が付くと、何やら高尚な雰囲気が漂いもする。
美術展では時折、参考資料として書籍や雑誌がうやうやしく展示されていることがあります。
あの感じです。
それで怖じ気づく。

仮に、高価な本に思い切って手を伸ばしたとすると……、
白い手袋をはめた専任の販売員がすっと脇に立つ。
「よい本を見つけましたね、その本は……」など勧誘が始まり、引くに引けなくなる。
いったいどこからそんな悩みをひねり出したのか、思い出すだけで恥ずかしくなります。
まあ、そんなありさまでした。

実際には、高尚な本もあれば、低俗な本もあります。
何から何まで、奔放に入り乱れています。
会場で係員に声をかけられることはありません。
気持ちよいほど放っておいてくれます。

以上、
「初心者が行く場所ではないのではないか」
「高級な本ばかりが並んでいるのではないか」
私の場合は2つの不安が足踏みの原因だったのですが、それとは別にもうひとつ。

3 女性のお客さんは少ないのでは?

たしかに、女性のお客さんは少ないです。
男女比で言うと「8:2」か「9:1」くらいでしょうか。
時間帯によっては「10:0」などということも……。
ああ、でもどうか、この数字を見ただけで尻込みしないでください。

近年、少しずつではありますが、女性のお客さんは増えていると思います。
学生さんなど、若い方も決して珍しくはありません。
女性のお客さんが少ないからと言うだけで、軽く見られたり、ぞんざいに扱われたり、そんなことは絶対にありません。
その反対。今までとは異なる新しいお客さんとして、大いに歓迎されるでしょう。
会場の係員の方々には、女性も多くいらっしゃいます。

さて一方で、デパートなどの古本市を見ると、むしろ女性客の方が多いくらいです。
やはり場所柄なのでしょう。
陳列に工夫を凝らしている古本市も多く見受けられます。
デパートならば買い物のついでに立ち寄ってもよいけれど、わざわざ古書会館には出向かない。
なるほどうなずけます。
そもそも古書会館の存在を知らない人が多いのではないかとも思われます。
パルコは知っている。東京古書会館は知らない。
これもうなずけます。

古書即売展の会場に入ってみたら、まわりは男の人ばっかり。
そうですね、これでは落ち着かないかもしれません。
けれども、古書即売展のお客さんのほとんどは、自分の周りの人たちを気にしておりません。
なぜなら、頭の中は古本のことで一杯だからです。
ひたすら古本に集中しています。
隣りに立っているのが女性でも男性でも妖怪でも、それよりも大切なのは目の前の古本です。
(少しくらいは周りを気にしたほうがよいのじゃないかと言うくらい、我が道を突進するお客さんも見かけないことはないのでありますが……)

ですから、ご自身の気持ちの持ち方ひとつで、楽にもなり苦にもなるというところだと思います。
周りが気にしていないように、自分も気にしなければよい。
とは言え。
どうしても気づまりな時は、無理はしませぬように。
我慢してまで頑張って、古本そのものが嫌いになってしまっては元も子もありません。

初日の朝一番(午前中)は混雑しますから、その時間帯は避けるとよいでしょう。
初日の午後、あるいは2日目になれば、会場はだいぶのんびりしてきます。
周囲を気にせず、ゆっくり本を探せます。

古書即売展は怖い所ではありません

古書即売展は怖い所ではありません。
改めて、声を大にして言いたいです。
出来ることならば、ぐずぐずしていた昔の自分にも言い聞かせたいところです。

何事もそうですが、初めは勇気がいるかもしれません。
しかし入ってみれば案外とあっけないものです。 

古本に興味がある。
古書即売展に行ってみたい。

どうぞためらわずに、最初の一歩を踏み出してみてください。

東京の古書会館にかぎった話になりますが、今週が駄目なら来週、再来週……。
古書即売展は、ほぼ毎週のように開かれますから、あせる必要はありません。
古書即売展はいつも、入るのも自由、出るのも自由です。
自分のペースで、ゆっくりと、自分のなかの古本の魂を世話してゆきましょう。

本の世界はまったく尽きるところがありません。
古本を通して、あなたの世界が少しでも広く、深くなりますように!

古書即売展の概要と、その魅力につきましては、以下の記事をご参照くださいませ。
古書会館の古書即売展7つの魅力

南部古書会館
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