本屋へよく行く人。
古本屋にも行くし、古本まつりも機会があれば行ってみる人。
それでは、古書会館の古書即売展となると、どうでしょうか。
古書会館? 存在すら知らなかった。
古書即売展。何となく聞いたことはあるけれど、行ったことはない。
こういう人は多いのではないかと思います。
古書会館および古書即売展とはどのようなところなのか。
あくまでも、ひとりの客の立場からですが、その魅力をお伝えしたいと思います。
初めて古書会館を訪れた日から、私はその面白さに病みつきとなりました。
まだ古書即売展に行ったことがないという人はぜひ!
古本好きだけにかぎらず、広く本好きの皆さまへオススメします。
古書会館とは?
まず古書会館について、簡単に説明します。
古書会館とは古書組合の施設です。主な事業は古書市場の運営です。
組合に加盟している古本屋さんが集まって、古書の売買を行ないます。
魚市場や青果市場と違って、古書の市場には卸問屋が存在しません。
それぞれの古本屋が、自分のお店では不要の本を売り、自分のお店に必要な本を仕入れます。
お店とお店とが取り引きをする形になりますので「交換会」と呼ばれています。
交換会は業者の人たち(組合員)の専用です。
それとは別に、一般のお客さんに向けて定期的に開催される販売会が「古書即売展」です。
古書即売展を開催する古書会館は次の都府県にあります。
・東京(3か所) ・神奈川 ・名古屋 ・京都 ・大阪 ・兵庫
以下、ここでは東京の古書会館および古書即売展について述べてゆきます。
現在、東京には4つの古書会館があります。
そのうち古書即売展を開催しているのは3つの会館です。
- 東京古書会館(〇即売展あり) 千代田区神田小川町3-22 最寄駅:神保町、御茶ノ水
- 西部古書会館(〇即売展あり) 杉並区高円寺北2-19-9 最寄駅:高円寺
- 南部古書会館(〇即売展あり) 品川区東五反田1-4-4 最寄駅:五反田
- 北部古書会館(×即売展なし) 板橋区大谷口北町41-2
以前は東部古書会館(荒川区南千住)もあり、即売展が開かれたこともありましたが、残念ながら2010年に閉館となりました。
北部古書会館では古書即売展の開催はありません(いつか開催してくれないかと、ひそかに願っています)。
各館の電話番号は以下のとおりですが、この電話は古書即売展の会期中しか通じませんので、お問い合わせの際などはご注意ください。
- 東京古書会館 03-5280-2288
- 西部古書会館 03-3339-5255
- 南部古書会館 03-3441-3975
なお、東京、西部、南部、それぞれの古書会館につきましては以下の記事で説明しています。よろしかったらご参照ください。
また関東一円で、東京とともに即売展を実施している神奈川古書会館につきましては下記をご参照ください。
古書即売展とは?
文字通り、古書を展示して即売する催し物です。
10店~15店前後の古本屋さんが参加して出品します。
早い話が「古本まつり」です。
ぐろりや会、中央線古書展、五反田遊古会など、それぞれ名称があり、参加店舗は各会によって異なります。
「古書即売展」と言ったり、「古本まつり」と言ったり、ちょっとややこしくなるかもしれません。
「古書即売会」、あるいは「古本市」、と言うこともあります。
古書会館で行なうのが古書即売展(即売会)、その他の会場は古本まつり(古本市)。
と、区別すると分かりやすいとは思いますが、はっきりした線引きはありません。
単なる呼び方の違いです。
店舗ではない場所で、期間を決めて、古本を売る。
規模の大小はあるとしても、この形態は同一です。
古書即売展=古書即売会=古本まつり=古本市
こう覚えておいて何の問題もないでしょう。
実際、古書会館の即売展開催日には、玄関先に「古本市開催中」の看板が出ます。
ついでに、「古書」と「古本」の違いですが、
古書……戦前などすでに絶版となってから年月の経っている本。オールド・ブック。
古本……割合に最近の本。定価より安く売られる中古品。セカンドハンド・ブック。
こう区別されることが多いようですが、じつは、厳密な定義はありません。
古書=古本、です。
くっきり分別できない曖昧なところ。これも古本世界の妙味なのではないか、と……。
また、古書即売展では、会場販売に加えて、事前に目録が発行されることがあります。
目録の入手方法、注文の仕方など、興味をお持ちの方は下記をご覧くださいませ。
古書即売展の開催日時は?
古書即売展は、ほぼ毎週末、東京、西部、南部、いずれかの古書会館で開催されています。
たいていは2日間の日程で、東京や南部は「金・土」、西部は「土・日」が多いです。
即売展によって多少の違いがあります。
時間は、10時-18時(2日目は10時-17時)が基本ですが、こちらも各会によって異なる場合があります。
開催されない週末もありますから、ここは注意が必要です。
おおまかな目安としては、
- 東京古書会館(神保町)→ほぼ毎週だが、1年に何度か休みの週がある。
- 西部古書会館(高円寺)→ほぼ毎週だが、1か月にいちど休みの週がある。
- 南部古書会館(五反田)→開催自体が1か月にいちど。開催されない月もあり。
と、なるでしょう。
意気揚々と古書会館に行ってみたら何もやっていなかった。
これはがっかりです。せっかく心に灯った古本の火がはかなく消えてしまいます。
あらかじめ開催の有無を調べておきましょう。
詳しい日程を知るには、全国古書籍商組合連合会の公式サイト「日本の古本屋」(運営は東京古書組合)のなかにある「古本まつりに行こう」を調べるのが便利です。
「古本まつりに行こう」のページを見てみると、全国各地で開催中もしくは開催予定の古本まつりが、日付順にずらりと並んでいます。
それぞれ「古本まつりの名称」「期間」「場所」が表示されています。
「場所」を見て、東京古書会館・西部古書会館・南部古書会館のいずれかであれば、それが東京の古書会館の古書即売展です。
目的の「古本まつりの名称」を選ぶと、日時のほかに、場所(地図)、内容、目録の有無、ホームページなど、さらに詳しい情報が得られます。
もうひとつ、日程を知るためにたいへん重宝するのが、古書会館で無料配布している「古書即売展一覧」です。
A4判の紙片に、本部(東京古書会館)、西部、南部と分けて、各会館の即売展の日程が、カレンダー式に一覧表となっています。
1月から6月までの上半期。7月から12月までの下半期。
1年に2回発行されます。
古書会館の古書即売展だけが載っていますので、どこの会館でいつ開催するのか一目瞭然、とても見やすいです。
初めて手にとった方は、こんなにたくさんの即売展があるのか、と驚くかもしれません。
今週は愛書会と杉並書友会、来週は書窓展と好書会……。
眺めているだけでうっとりするようなカレンダーです。
「古書即売展一覧」は、いずれの会館でも置いてありますが、東京古書会館がいちばん確実です。
西部や南部では品切れのことがあるかもしれません。
古書会館を訪れた際は、ぜひ入手してみてください。
当ブログ内でも、各即売展の簡単なガイドを用意してあります。よろしかったら、こちらも合わせてご覧ください。
古書即売展7つの魅力
古書即売展の魅力を述べてゆきます。
古書即売展にかぎらず、古本まつり全般に共通するところも多いのですが、
その魅力を書き出してみますと、
- 気軽に入れる
- 出品の対象はありとあらゆる本
- 何が出てくるか分からない
- 自由に手にとって見られる
- 総じて安い
- ほぼ毎週開催
- 古本人生が変わる
こうなりますでしょうか。
魅力その1 気軽に入れる
入場無料。誰でも入れます。
抱えきれないほど買い込んでもよし、何も買わなくてもOK!
出入り自由です。
ただひとつだけ、古書会館の即売展では入場時に独特の手順があります。
入口で手荷物を預ける
その他の古本まつりとは大きく異なる点です。
初めてのときはどきどきしますが、もちろん、厄介な手順はありません。
荷物係に手荷物を渡す → 番号札を受け取る
それだけです。貴重品は取り出して手元に持っておきます。
帰りは逆に、番号札を出して、荷物を受け取ります。
古本に夢中になるあまり番号札を紛失しないよう気をつけましょう。
- 万引きを疑ったり疑われたり、売る方も買う方も、余計なところに気をつかわなくてよい。
- 鞄がぶつかったりぶつけられたり、お互いに、いざこざのタネがなくなる。
- 棚から本を取るときに、鞄がいちいち邪魔にならない。
など、手荷物を預けるというひと手間は、即売展探訪には利点が多いです。
入口で身軽になれば、安心して古本に集中できます。
魅力その2 出品の対象はありとあらゆる本
全時代、全世界の本が、出品の対象となります。
とは言え……当然なのですが、実際に出品されるのは日本で出版された本が大多数です。
世界中すべての本と言うのは大げさかもしれません。
それでも可能性としては、一応「ある」ということです。
何かの拍子に、ぽろりと出品されるかも……。
また、限られた面積の会場ですから、並べる本の量には限度があります。
ありとあらゆる本が対象ではあるけれども、ありとあらゆる本が勢揃いするわけではありません。
目当ての本が見つからないことは多々あります。
なにしろ本の数は厖大ですから、これは仕方ありません。
特定の本を探している、もしくは、今すぐ必要な本がある、という場合は、やはりインターネットで探すのがいちばんの早道でしょう。
なお、特定の分野にかぎった古書即売展としては、
- 新興展(江戸時代以前の古典籍、漢籍、書画など)=年2回、6月・12月
- 洋書まつり(洋書全般)=年1回、10月
いずれも東京古書会館で開催されます。
もしかしたら「ある」かもしれない、と期待をこめて、しかし期待をこめすぎず、ゆったり構えて臨む。
古書即売展をたのしむ秘訣ではないかと思います。
魅力その3 何が出てくるか分からない
その日の古書即売展に、どのような本が出品されるのか。
それは会場へ行ってからのオタノシミ!
宝探しです。
古書即売展の会場では、参加するお店ごとに棚が分かれています。
お店によってやり方はまちまちですが、分野別とか著者別とか、整理分類して並べることはほとんどありません。
同じ分野の本をある程度まとめたり、文庫本やマンガを集めてまとめたり、それくらいです。
種々雑多、本棚のどこに焦点を合わせてよいのか、最初のうちは戸惑うかもしれません。
けれど、徐々に慣れてきますから心配無用です。
散歩のつもりで、急がず、ゆっくりと、棚を眺めていきましょう。
江戸時代の和本の隣りに、ついこのあいだ出たばかりの小説があるかもしれません。
難しそうな学術書の下に、お色気があふれていることも。
先程、「目当ての本が見つからないことは多々ある」と書きました。
たしかに、探している本が狙い通りに見つかることは、そういつもはないでしょう。
(狙い通りに見つかって舞い上がることも、もちろんあります)。
その代わり、
探していなかった本が見つかる
分かりづらい言い方ですみません。
つまり、今まで存在をまったく知らなかったけれど、自分の興味にピッタリ命中する本が見つかる。
世の中にはこんな本があったのか!
何が出てくるか分からないこその、思いがけない遭遇です。
この発見のよろこびは、古書即売展の真髄とも言えそうです。
魅力その4 自由に手にとって見られる
好きなだけ、気の済むまで手にとって眺めることができます。
片っ端から手にとっても、とがめられません。
買うつもりがあってもなくても、気になった本は、どんどん棚から引き抜いてみましょう。
手で触れる。これは大事です。
重たさや感触や、手のひらから本の体温が伝わってきます。
触れているうちに、だんだん欲しくなってくるのは不思議です。情が移る?
次から次へと片っ端から手にとる。個人経営の古本屋さんでは、なかなか出来ないことです。
たいていの古本屋さんの棚は、店主の目配りが隅々にまで行き届いています。
むやみに乱しては失礼ですし、そうさせない空気が、店内にはたしかに漂います。
もちろんその本に興味があれば遠慮はいりませんが、ひやかしで、何でもかんでも手を出すのは控えたいところです。
古書即売展の会場では、思う存分に手を伸ばしてください。
店主さんの視線を感じて緊張することもありません(それはそれで古本屋の「味」なのですが……)。
気やすさという点では、即売展の雰囲気はブックオフに近いです。
魅力その5 総じて安い
100円の本もあります。
0がいくつあるのか、目玉が飛び出る価格の本もあります。
全体としては、お財布にやさしい価格の本が多いと言えそうです。
ずいぶん安いなあ、と思う本はたくさん見つかるはずです。
たとえば、どこかの古本屋さんでは1000円、2000円の値がついていた本が、500円くらいで売っていることは珍しくありません。
古書相場〇万円の本が300円とか、驚くほどの掘出し物となると、そう簡単には出現しないでしょう。
けれども、あまりの安さに仰天することもしばしばです。
大放出、もしくは在庫処分といった趣きですね。
この「蜜の味」をいちど味わうと、ああもう、やめられません。底なし沼かも……。
手にとった本の、裏表紙をめくってみましょう。
価格と出品店名を記した値札が貼ってあります。
値札のデザインはそれぞれの古本屋さんで違っていて、この違いを見比べるのも面白いです。
魅力その6 ほぼ毎週開催
前述のとおり、東京の古書会館では、ほぼ毎週のように古書即売展が開かれます。
時には、3つの会館で同時に開催される週末もあります。
どこを先に訪れようか、前の日の晩は、悩ましくも、わくわくするひとときです。
今週は趣味展、来週は和洋会、というように、週によって主催する会が変わります。
もちろん展示される本はすべて入れ替わります。
ですから、いちど訪れて何も見つからなかったとしても、どうか見切りをつけないでください。
毎週とは言わないまでも、しばらくは通い続けてみることを、強くオススメします。
何度か通っているうちには、参加するお店の様子も分かってきて、自分と相性のよい出品店も自然と見つけ出せるはずです。
そうなれば狙いを定めやすくなります。
俄然、張り合いも出るでしょう。
今週が駄目でも、来週がある!
古書即売展には終わりがありません。底なし沼……。
魅力その7 古本人生が変わる
古書即売展はあなたの人生を変える……さすがにそこまでは言い切れません。
しかし、
古本人生は変わります!
これは請け合います。
今まで知らなかった時代の、今まで知らなかった本を、一冊二冊と買ってゆくうちに、あなたの本棚は伸びやかに装いを変えてゆくでしょう。
自分でも気がつかなかったものが、自分の本棚から、思いがけず見えてくるかもしれません。
本が好きで、本屋も好きだけれど、
新刊書店でたいていは間に合う
古本屋と言えばブックオフしか知らない
そういう人こそ、ぜひ古書会館の古書即売展を訪れていただきたいです。
新刊書店やブックオフも、もちろん面白いし、発見はたくさんあります。
最近の本が中心ですから、現代の様々な分野について、今の時代の世界の在り方について、横の広がりを見渡せます。
一方で古書即売展に並んでいる本は、令和から平成、昭和、大正、明治、江戸へ。
21世紀から18世紀、あるいはもっと昔へ、変幻自在に、軽々と時代をさかのぼります。
縦の深まりです。
たとえば、昭和の美容術、大正の手紙文、明治の料理法、江戸の旅行案内……。
横の広がりに、縦の深まりが加わることによって、古本人生は一気に立体的になるはずです。
時代をさかのぼるということであれば、即売展にかぎらず、すべての古本屋さんが当てはまります。
ただ、町の古本屋さんの場合は、あまり古い時代の本となると、見かける機会は少ないと思います。
江戸、明治、大正。古書即売展では、このあたりの本がどんどん出品されます。
はるか遠くの時代が、すぐそこにある。
利用しないのはもったいない!
勉強の気構えなど全く要りません。
旅行ですね。
好奇心の向くままに、あの時代も見る、この時代も見る。
時間旅行です。
さいごに
古書即売展の魅力は尽きません。
しかし、良い所だけを抜き出すのではなく、悪い所も示さねばならないでしょう。
古書即売展の欠点
・散財する
・部屋が本で埋もれてしまう
いや、これも、悪いのは古書即売展ではなく、悪いのは私自身です。
古書即売展の歩き方に、たったひとつの方法はありません。
それぞれが、それぞれの歩き方で歩けばよいわけです。
初めは戸惑ったり、本の迷宮で迷子になったりするかもしれません。
(私は今でも迷子になります)。
けれど失敗せず無難にこなすより、迷うくらいのほうがたのしいです。
お財布と相談しながら。
本の置き場所を思案しながら。
それではどうぞ、古本世界の時間旅行へお出かけください。
古書会館の古書即売展へ!
なお、古書会館以外の場所で行なわれる古本まつりにつきましては下記をご覧ください。
→多種多彩どこへ行こう? 古本まつりの歩き方
さいごのさいごに。
実際に私自身はどうだったのかということで、初めて古書会館を訪れた日からの古本日記を掲載しております。
参考になるところはほとんどありませんが、ひとつの実践篇として、もし気が向かれましたら、ご笑覧ください。
当時の日記に加えて、現在の追記を添えてあります。