【2010年10月17日】
御茶ノ水駅から坂を下ると、駿河台下のバス停に、荒川土手行きの都営バスが停まっていた。
ここから、どこをどう走って荒川土手まで辿り着くのか、一瞬、飛び乗ってみたい衝動に駆られる。
それは一瞬であって、やはり土手よりは古本だ。
バス停に背を向け、床屋の角を曲がって東京古書会館。いつもと様子が違う。
あ、そうだった。新宿展は、初日の日曜日は普段より1時間遅い11時開場なのだった。
時間をつぶすと言っても本屋のほかには考えつかないし、今日は、即売展のあとは東京堂書店に行くつもりだったから、まあ恰度よい、先に行こう。
東京堂にて山本善行氏の新著『古本のことしか頭になかった』(大散歩通信社)を購入、1000円。
一昨日、ここで見かけていたのだが、すぐに買わなかったのは図書券を持っていなかったからで、机の抽斗のなかで眠っていた図書券を今日は用意してきた。
4500円分あるので、当然『彷書月刊』休刊号も買っておくべきなのだが、なんとなく、買わなかった。なんで買わないのか自分でも奇妙だが、なんとなく。
三省堂書店にも立ち寄ると、塩山芳明氏の『東京の暴れん坊』(右文書院)が置いてあったので、これは迷わずに買う。2100円。
書泉ブックマートの入口前には見事な行列ができていて、歩道にはみ出していた。何の行列だろう、本屋の行列は気になる。
改めて古書会館。まだ玄関は開いていない。
書泉の行列とは比べ物にならぬが、14、5人が並んでいる。
書泉の行列は若者ばかりだったが、こちらの年齢層は格段に上昇する。全員、そのまま古本屋の帳場に座ってもおかしくないような風貌である。
紅一点、髪をひっつめにした女性が行列の華となるが、しかし眼光はどこか鋭い。
玄関の自動ドアが開いて、ひとまず地下に降り、会場の前でさらに待つ。
「ああ疲れた、やる前から疲れたヨ」
参加店の御主人の陽気な(?)ぼやきが聞こえてくる。
さて、11時。
漲る執念(蒐念というべきか?)に、一団さっと早足で散らばり、黙々と本を抜き差しする物音のみが場内を占め、しばし人声は絶える。
いっそ、人間が絶える、と言ってはいくらなんでも不躾に過ぎるだろうか。
伸びる手と縮む手、見詰める眼と見切る眼、右から左と絡まってはまたほどけ、これはたしかに昆虫群の有様ではありますまいか。
無論、共喰いはしない。なかには、ぶつかっても押しのけてもお構いなしに突進する個体が混ざるのだが、およその振舞いは秩序があって、人間で言うなら紳士的だ。紳士的ではあるが、どうしても人間の形をした何か別物、虫と言って失礼ならば、鬼とでも言うよりほかないのではないか、と思えるのである。私もまた、物慾する一匹の餓鬼なのである。
昭和2年のポケット版渡米案内『米国の旅』春日哲(大盛社)315円、難波田龍起の美術解説『生活のなかに美術を』(造形社)500円、『カレーライスの話』江原恵(三一新書)150円。
購入3冊……迫力に欠けた鬼である。
古書店街は、悠久堂書店の店頭から『装幀列伝』臼田捷治(平凡社新書)200円。店内の図録棚を覗いてみると『谷中安規の夢』1万5千円はまだ買い手がつかないようで、美しく売れ残っていた。
田村書店は定休日なので、小宮山書店のガレージをうろうろ。
ミロンガで珈琲を飲みながら『古本のことしか…』を読み始めたら古本を買いたくなった。
ふたたび古書店街を進み、澤口書店で『咖啡の旅』しめぎ交紀(みづほ書房)105円、@ワンダーで『詩集きみとぼく』ポール・ジェラルディ(沖積社)420円。
そのまま九段下へ抜けて、地下鉄に乗り中野ブロードウェイに流れ着く。
ソノラマ海外文庫が数冊あって、なかでも『冷凍の美少女』が琴線に触れるが3650円じゃあ仕方ない。
コバルト叢書、昭和4年の滞欧記、タイガー立石、ヤナセタカシ「ユーモア・スタイルブック」連載中の『別冊モダン日本』、小島功のナンセンス漫画。
購入メモ
*まんだらけ/中野ブロードウェイ
『女人開花』榛葉英治(鱒書房コバルト叢書)105円
『滞欧印象記』本間久雄(東京堂)1050円
『タイガー立石のデジタル世界』(思索社)1575円
『別冊モダン日本』昭和26年8月号(モダン日本出版部)525円
『俺たちゃライバルだ!』小島功(小学館文庫)210円
私が古本を買うのではない。何かが私に古本を買わせるのである。屁理屈。
【2023年1月追記】
山本善行氏は京都の古本屋「古書善行堂」の店主さんです。
『古本泣き笑い日記』(青弓社/2002年)のちに『定本古本泣き笑い日記』(みずのわ出版/2012年)、『関西赤貧古本道』(新潮新書/2004年)、『漱石全集を買った日―古書店主とお客さんによる古本入門』清水裕也氏との共著(夏葉社/2019年)、『新・文學入門―古本屋めぐりが楽しくなる』岡崎武志氏との対談集(工作舎/2008年)の著書があります。
いずれも、古本好きならぜひ読んでおきたい好著でしょう。
京都の古書善行堂、いつか行ってみたい……。
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東京古書会館の「新宿展」はすでに終了している催事です。
新宿展につきましては下記をご参照ください。
→【2009年12月13日/2022年11月追記】東京古書会館の新宿展