【2010年5月28日/2022年12月追記】西部展から和洋会、古書店街

【2010年5月28日】
西部古書会館、西部展。
いつだったか、この西部会館で「なにかないかなあ」と、節をつけて唄いながら棚を巡っているお客さんがいたのだが、今日またその「なにかないかなあ」の歌声紳士に遭遇する。
このあいだと同じように、今日も「なにかないかなあ、なにかないかなあ」と口ずさみながら、手ぶらのままで、棚から棚へ。もし、何か見つかったら、その唄はどのように変調するのだろうと思う。
けれども歌声紳士は、何かを見つけることよりも、何もないということを愉しんでいるようでもあるのだが……。そして私も、このあいだと同じように、その唄の真似をして、さすがに声には出さないけれど、内心でさえずりながら棚を歩く。なにかないかなあ。

『新聞の歴史』小野秀雄(同文館)200円、『日本昆虫記』大町文衛(朝日文化手帖)210円、『〈ふたり〉のポケット・ブック』ペイネ(みすず書房)315円、『メスとオス』岡田要(カッパ・ブックス)300円、『わが文壇散歩』十返肇(現代新書)300円。

西部展で5冊購入し、それからガード下の球陽分店と都丸支店の店頭棚を覗いたあとは、中央線で御茶ノ水。
東京古書会館の和洋会。
十一谷義三郎の随筆集3000円は少々値が張るし、田中比左良ほか著の漫画漫文集『職業女うらおもて』1575円など買っておかないとあとでがっかりするゾと、将来の後悔を予感するにもかかわらず買わなかった。
明日は少し遠出をして平塚の美術館に行ってみようと思っているので、財布の口がたいへんすぼまっているのだ。そういう棚の巡り合わせなのだから、引くにまかせるより仕方がない。
遠浅の書架を茫とながめていると、しかし足元には、やなせ・たかし『出発の詩集』(サンリオ)200円がひらりと光っていたりもして、うれしく拾う。
もう1冊、『湘南伊豆文学散歩』野田宇太郎(英宝社)200円。

さてそれで、神保町古書店街。
トキヤ書店と湘南堂書店では躍起になって桃色雑誌を漁りはじめる。急に満潮? 和洋会で節約したのはこのためか! など、自分で自分の腹の底を見透かしてしまった味気無さだが、とにかく湘南堂書店では『Shulle! 5』(Max CORPORATION)500円を購入する。

小宮山書店のガレージセールに流れ着くと、紙箱に詰まった古い絵葉書を眠たい二重瞼の女性が一枚ずつ、指輪をはめた細い指を稚魚のように敏捷に滑らせてめくりながら、黒地の薄い夏服の前屈みになってひらいた襟元のその奥の……見てはいけない、ああ見てはいけない妖しい白昼夢の光源であった。

ミロンガの薄暗がりに逃げこんで、熱い珈琲に覚醒を促せば、今日の買物でいちばんの高額は500円のエロホンなんだから、これでは古本の神様に見放されるのは当然だ。
馬鹿は馬鹿なりに諦めきれず、たまには小宮山書店の店内も覗いてみようと思い立った。中二階から二階へ上がってなおも目をしょぼつかせていると、最後に岩佐東一郎の風流読物集『ちんちん電車』(あまとりあ社)が現われた。500円。

2010年5月28日 今日の1冊
*小宮山書店/神保町
『ちんちん電車』岩佐東一郎(あまとりあ社/昭和30)500円

岩佐東一郎「ちんちん電車」表紙

【2022年12月追記】
いったい何をやっているのかと、後々になって振り返ってみれば、自分の行ないのばかばかしさを叱責したくもなりますが、しかしそれはいつになっても、今やっていることも、未来から顧みればすべて、何をやっているのか、ということになってしまいそうです。

岩佐東一郎については以下をご参照ください。
【2010年3月19日/2022年12月追記】五反田遊古会から愛書会へ、岩佐東一郎『二十四時』