【2010年6月21日】
鼻風邪、喉が腫れぼったい。新宿西口古本まつりと古書会館の新宿展、今日にするか明日に延ばすか。
安静が第一なのだろうけれど、部屋で横になっていても古本市のことが悶々と気懸かりになりそうで、そうすると衛生上は余計に悪いから、出かけることにする。
新宿西口古本まつりは会場のポスターによると50万点の出品なのだが、その大量の本の山から、中公文庫を2冊だけ。野口冨士男『わが荷風』と、足立巻一『立川文庫の英雄たち』、各200円。
いっぱいあるのになかなか見つからない。これは身体の芯がくたびれる。もっとも、体調が万全じゃなかったから、見落としも多々あったことだろう(万全でも見落とすが)。
頭がぼんやりして、途中から背表紙の文字はただのぐにゃぐにゃした線と化して網膜を流れ去った。通路をはさんだ献血センターからは、献血を呼びかける熱意に満ちた呼び声が頭蓋骨に響いた。それでも『立川文庫の英雄たち』が200円だったときには、急に元気になったようでもある。
中央線で御茶ノ水。駅売店でビタミン水なんぞを買い求め、それをこくりと飲みながら、駅前の三進堂書店を初めて訪れる。昔ながらの古本屋の風情を味わうことができたが、残念ながら何も買えなかった。店内に冷房は入っていなくて、身体が弱っている人間にはじつに助かった。
つづいて東京古書会館の新宿展。こちらは何をそんなに冷やすのかというくらいに冷房が効いているのが難点だが、お昼を過ぎてお客さんの数は少なく、ゆったりと古本の匂いを吸って英気を養うことができそうだ。
朝日文化手帖の『みつまめ随筆』秋山安三郎、400円から始まって、『主婦の科学』沼畑金四郎と『美人となる科学』松永保彦、300円のコバルト叢書を2冊、それから『いたずらの秘本』小早川博(青春出版社プレイブックス)200円、『裸NUDE』中村立行(評論新社カメノコブックス)500円、『酔人粋学』滝川政次郎(自由国民社)600円と来て、仕上げは新潮社一時間文庫の、ヴラマンク著、里見勝蔵訳『死の前の肖像』だった。この本は、数年前、ヴラマンク展を見に行った際に存在を知り、手帖にメモしておいた。新潮社に「一時間文庫」なる叢書があったことも、そのとき初めて知ったのではなかったろうか。しかし絶版書ではあるし、実物を手にすることはないだろうと当時は観念していたのだが、あれから幾年かが過ぎて、今こうして実物が手中にある。いつも同じ台詞になってしまうが、なにやら不思議だ。なにやら夢うつつだ。
価格350円というところを見ると『死の前の肖像』自体はそれほど珍しい本ではないようだ。ついこのあいだ、田村書店の店頭で里見勝蔵の著書『ヴラマンク』を買ったばかりだから、あの本が呼んでくれたのかもしれない。
古書店街へ行き、悠久堂書店の店頭から『京のあじ』高木四郎(六月社)100円を買って、ミロンガで休憩する。古書会館では風邪のことは忘れていたが、あれは古本の魔力だったのだろう、こうして椅子に落ち着くとやっぱり全身が重たい。そして私自身も、古本の魔力だけを受けつけるような体質に変化しつつあるようだ。
今日はこれで切り上げるはずが、足は湘南堂書店に向かい、アムールショップに向かい、エロの棚をごそごそ漁り始めるのだから、おまえ仮病じゃないのか? と私は私を疑ってみる。
2010年6月21日 今日の1冊
*新宿展/東京古書会館
『死の前の肖像』ヴラマンク/里見勝蔵訳(新潮社一時間文庫/昭和30)350円
【2023年1月追記】
「新宿西口古本まつり」の会場は、新宿駅西口の地下広場(東京都交通広場)です。
毎年2回、6月と11月の恒例古本市でしたが、新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年6月の開催は見送られました。以降、休止が続いています。
当時は広場の全面を使用しており、一周すると、2時間3時間はあっというまです。
2018年頃からは衣料品の特売と会場を半々に分け合うようになり、規模が縮小されました。
しかし、何と言っても交通至便の一等地ですから、いつも盛況でした。
人が集まりすぎるということが、却って再開を阻んでしまうのだとしたら、ちょっと皮肉な現象でもあるのですが……。
今のところ、2019年11月の第35回が最後の開催となっています。
会場の縮小と時期が重なるということもあり、ひょっとすると、自然消滅のような格好で終了してしまったのでしょうか。
いや、不吉なことは考えずにおきましょう。
第36回の開催が待たれます。
御茶ノ水駅前の「三進堂書店」は神田古書店連盟発行の神保町古書店マップにも載っていたお店です。
古書店街からは離れた場所で、孤軍奮闘していた古本屋さんでしたが、2020年3月末で閉店となりました。
東京古書会館の「新宿展」は2016年で終了しており、現在は行なわれていません。
新宿展につきましては以下の日記もご参照ください。
→【2009年10月18日/2022年11月追記】東京古書会館の新宿展にて函入本の取り出し方の練習