【2010年7月24日/2023年1月追記】中央線古書展で『牛を焚く』

【2010年7月24日】
古書即売展4か所同時開催。
昨日は南部、東部、東京。古書の夢をさまようて、仕上げは西部古書会館。中央線古書展。

古賀春江『牛を焚く』が出品されているが、5500円、もちろん予算を超えている。
廉価廉価と棚をめぐって楠本憲吉『おんな歳時記』100円と皆川洋『駅弁と珍味』300円。
その2冊で切り上げようとしたら身体が勝手に常田書店の棚に舞い戻り、『牛を焚く』はもうずいぶん昔、源喜堂で6000円だったなあと感慨に耽るまもなく、ふいに血がざざっと逆流するような眩暈を感じて『牛を焚く』を持ったまま帳場へ。
年配の御主人が、値札を剝がした本体を函に戻しながらふっと手をとめて「へえ、古賀春江か……」しみじみとつぶやく。
その瞬間、何と言ったらよいのか、何とも言えない電気みたいな何かが全身を走った。これも一種の感得なのだろうか。
感得に金額の高低は関係ないはずだが、やはり古本世界に分け入るためには、時々こうして財布をはたくことが必須なのかもしれない。
しかし御主人に「いつ頃の本ですか?」と訊かれて「昭和49年みたいですが……」と口籠もるあたりはまだまだ修行が足りぬ。

購入メモ
*中央線古書展/西部古書会館
『おんな歳時記』楠本憲吉(人物往来社)100円
『駅弁と珍味』皆川洋(大陸書房)300円
『牛を焚く』古賀春江詩画集(東出版)5500円

皆川洋「駅弁と珍味」表紙
『駅弁と珍味』皆川洋(大陸書房/1979)

都丸支店の店頭壁棚より地味井じみい平造へいぞうの短篇が収録された雑誌『幻影城』(絃映社)を2冊。各100円。
1975年9月号に「水色の目の女」及び「作品回顧」。1976年10月号に「煙突奇談」。
探しているバックナンバーがぴたりと見つかるとき、それも100円均一で見つかればなおさら、的中の快が脊髄をくすぐる。ああそれにしても、地味井平造名義の探偵作品も含めて、どこか『長谷川潾二郎全文集』を企画してくれないものか。

中野ブロードウェイ4階のまんだらけで『世界奇談集』R・リプレー(河出文庫)100円。
2階の古書うつつで『版画技法ハンドブック』小野忠重(ダヴィッド社)100円。
荻窪のささま書店均一棚より『昭和・奇人、変人、面白人』野中花(青春出版社)105円。

100円周遊のあとは吉祥寺の古本センター。
先月、棚のいちばん上に現代ユウモア全集が幾冊か入荷していた。そのなかに『命のばし』があったから、踏台に上がって取り出してみたところ2400円で、あえなく踏台を下りたのだった。
今日、それらユウモア全集はあのときのまま1冊も売れずに売れ残っている。
最終巻の『命のばし』は他では見かけたことはないし、函付で2400円ならそれほど無茶ではないかもしれない、と思いつつ、思うだけで踏台には上がらなかった。
いせやに寄道して、昨日今日の古書会館4か所探訪の蒐書を総括する。
総括? 何もまとまりはしない。
ただそのときの1冊1冊が全ての私だとでも言うように、とりとめもなく散らかって、ビールのほろ酔いと、この世を覆う焼鳥のケムリなのである。

【2023年1月追記】
当然、ここでは『牛を焚く』の書影を掲げるべきです。
それはそうなのですが『牛を焚く』は古本の山のどこかへ埋もれてしまっています。
あのときの感得はどこへ行ったのかと言いたくなりますが、さて、ほんとうに私は『牛を焚く』買ったのかどうか怪しくなってきました。
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古賀春江【こがはるえ、1895(明治28)-1933(昭和8)】は、シュルレアリスムの画家です。男性です。
詩画集『牛を焚く』は没後から時を経ての刊行(昭和49年)ですが、生前には『古賀春江画集』(昭和6年)が第一書房より刊行されました。
美術展の図録には『古賀春江の全貌』(東京新聞/2010年)、『古賀春江創作の原点』(ブリヂストン美術館/2001年)、『古賀春江ー創作のプロセス』(東京国立近代美術館/1991年)、などがあります。
また古賀春江の詩、文章、書簡を集成した『写実と空想』(中央公論美術出版/1984年)があります。
『写実と空想』は2004年にオンデマンド版としても再刊されています。
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地味井平造は、画家・長谷川潾二郎の筆名です。
長谷川潾二郎については以下の日記をご参照ください。
【2010年5月29日/2023年1月追記】湘南古本散歩、平塚・藤沢