【2010年8月27日/2023年1月追記】書窓展と古書店街

【2010年8月27日】
東京古書会館、書窓展。
あきつ書店の棚の面白さと安さは、趣味展の扶桑書房と双璧を為すのではなかろうか。
開場早々の図抜けた混雑ぶりが、自ずとそれを証明している。
押し合いへし合いで、どこからか「痛ッ!」と声が上がるが、声の主は、踏まれるか小突かれるかした相手を振り返るでもなく、寸刻を惜しむというように、眼は書棚から離れないようであった。
石黒敬七の新書判『にやり交遊録』を発見するが、人垣に阻まれて手を伸ばせない。誰も触わるな、触わっちゃ駄目、と念じつつ、隙間ができた瞬間に手を差し入れ無事入手。
つづいて中公文庫の『日本橋檜物町』とようやくの再会。しかしこちらも手が届かない。触わるな、触わるな。無事入手。
『即席惣菜料理』という題名に惹かれて手にとると、明治28年の刊行。明治時代の本を初めて買った。
その他『駅弁図鑑』と『新聞風俗帖』、合わせて5冊を買う。

購入メモ
*書窓展/東京古書会館
『にやり交遊録』石黒敬七(日本週報社ミゼット・ブックス)500円
『日本橋檜物町』小村雪岱(中公文庫)200円
『即席惣菜料理』赤堀峰翁/赤堀峰吉/赤堀きく子(大倉書店)500円
『日本駅弁図鑑50』(ジェネオン・エンタテインメント)100円
『新聞風俗帖』渡辺一雄(富士書苑)400円

石黒敬七「にやり交遊録」表紙
『にやり交遊録』石黒敬七
(日本週報社=ミゼット・ブックス/1959)

神保町古書モールで大後美保『天候ノイローゼ』(ミリオン・ブックス)100円、田村書店の店頭でJ・A・コメニウス『世界図絵』(平凡社ライブラリー)500円。
屋内の古書モールやその階下の三省堂古書館は冷房が効いていて快適。田村書店や小宮山書店ガレージなど、店頭を漁れば大汗を掻く。

ミロンガでひと休み。
先程の『即席惣菜料理』をめくってみる。明治時代の「即席」は、なかなか手間のかかる即席なのだ。
あと100年もすれば、「お湯を注いで3分? なんて面倒な!」と、現代の即席は未来人に笑われるのかもしれない。

赤堀峰翁ほか『即席惣菜料理』表紙
『即席惣菜料理』
赤堀峰翁/赤堀峰吉/赤堀きく子(大倉書店/明治28)

以前から保留にしていた『スペルマの妖精』をそろそろ引き取っておこうかとBOOK DASHへ行ってみるが、1000円の第4集は売れていて、1500円の第1集だけ売れ残っている。
さらにもう1冊、湘南堂書店では第6集を見かけているがそれも1500円。
わずか500円の差なんだが、1500円を出すほどの妖精でもないように思われ、見送る。貧と淫とは、いつも折合いが悪いということなのかどうか。

【2023年1月追記】
書窓展の「あきつ書店」は、初日朝一番に訪れる御常連諸氏にとっては第一目標と言えるほど人気の的ですが、まだ即売展の新米だった当時の私は、何度か通っているうちに、ようやくその凄味に気づくのでした。
あきつ書店につきましては、以下も合わせてご参照ください。
【2010年4月23日/2022年12月追記】書窓展、三茶書房、五反田アートブックバザール
  ◇
図書館にあるような本は買わなくてもよい。
とは、よく言われます。
全集、百科事典、大冊の画集。
それらを買い揃えるには、並々ならぬ労力が要ります。
限られた予算と置き場所でのやりくりとなれば、なおさらです。
小説や随筆や、そのほか様々な一般書についても、図書館に収蔵されているということさえ把握していれば、無理に購入するには及ばないのかもしれません。
遠方の図書館となると話は別ですが、近所の図書館に置いてあるならば、必要に応じて出向けばよいわけですし、それが賢明なやり方とも言えます。
もちろん、そうは言っても、手許に備えて日々の慰めとしたくなる本はあり、ただ読むだけでは終わらないところが、書物の魅力でありまた魔力であるのでしょう。
ひとまずそこは置いておいて、それでは図書館にない本。
たとえば戦前の古書、戦後の仙花紙本、読み捨てにされてしまうような雑誌や読み物。あるいはわずか数ページのパンフレット。地下出版の本。
後々になっていざ探そうとしたときには、疾うに散逸していて、どこの図書館にも置いていない。
そういった主流からは逸脱しているような本こそが、古本世界では俄然輝き始めます。
昔の漫画雑誌にびっくりするほどの古書価が付いていることなど、その好例と言えましょう。
あるいはエロ本です。濫造というような時期には、右から左へと軽率に扱われもして、やがて時を経たのちに見回してみると、あれほどあふれ返っていたはずのものが泡の如くに消えてしまっている。
だからと言って誰も困りはしない、と言えばそれまでなのですけれど、図書館が相手にしない本の宿命であるとは言えそうです。
試みに国会図書館の蔵書を検索してみますと『スペルマの妖精』は一致0件です。
国会図書館の仕組みをよく知らないのですが、一応は合法的な出版物であるはずですから、地下書庫のどこか奥のほうに埋もれているのかもしれません。
少なくとも、ちょっと閲覧、というのはなかなか難しいのではないかと思われます。
第6集までは確認していますが、全部で何冊のシリーズだったのかは不明です。
図書館にない本。買っておくべきは『スペルマの妖精』だったのかもしれません。
今後、どこかの古本屋さんでふたたび見つけたら1500円でも2000円でも買うのかというと、それはそれでどうなのだろう、やっぱり買わないかもしれないと、煮え切らない結論に至ります。