【2011年1月28日/2023年3月追記】趣味展から銀座古書の市へ行ってまた神保町

【2011年1月28日】
東京古書会館、趣味展。
扶桑書房の棚にて岩佐東一郎詩集『航空術』(第一書房)発見する。函欠の裸本ではあるが2000円は嬉しい。
銀装堂書店の棚から佐佐木千之ちゆき『競馬放浪記』(グラフ社)500円。新橋遊吉や寺山修司にも同名の著書があるが、この佐佐木千之の小説は昭和21年の刊行で、あるいは『競馬放浪記』という題名の元祖なのかもしれない。佐佐木千之は初見の作家名だ。菊池寛が序を寄せている。装幀は鈴木信太郎。
どこのお店の出品だったかは忘れてしまったが、現代ユウモア全集の『命のばし』の裸本が300円で並んでいた。このあいだ吉祥寺の古本センターで函付2300円を買ったから、単純に比較すると、外函だけのために2000円を出費した計算になる。
会場内では、新年になって初めて姿を見かけるご常連がいらした。挨拶を交わすわけではないけれど、チラリと窺って相手の消息を確かめる。私だけの癖ではないようで、向こうから来るご常連がふとそんな気配を見せるときがある。
その他『クラシック・カメラ入門』鈴木八郎(現代カメラ新書)200円。趣味展は購入3冊。

佐佐木千之「競馬放浪記」表紙
『競馬放浪記』佐佐木千之(グラフ社/昭和21)

三茶、小宮山、田村、古書センター、矢口、山陽堂、と店頭をそぞろに歩いたあとは銀座へと赴く。
松屋の地下鉄連絡口の階段脇に不思議な覗き窓があって、覗いてみると窓の奥は銀座共同溝とのことだった。上下水の金属管の鈍色や、電話ケーブルのうねうねを、しばし鑑賞する。
松屋銀座の8階催事場で銀座古書の市。
小銭で買える雑本類が少ないのは、やはり場所柄なのだろう。
それでも日月堂が漫画六家撰の1冊、細木原ほそきばら青起せいき『ふし穴から』(中央美術社)を函付1000円で出品してくれていて感激する。六家撰は残すところ『ユーモア錠剤』と『尖端を行く』の2冊になった。
購入1冊。古本のほかに銀座に用事はないので神保町へ帰る。
ミロンガで珈琲を飲みながら、趣味展会場でもらった今回の目録をめくる。
一息ついたあとは三省堂古書館へ行き、摂津茂和『梔子姫』(中央社ユーモア文庫)1500円を買う。
ユーモア文庫なる叢書の存在は知らなかった。『梔子姫』はその「6」なのだが、他にどんな書目が刊行されたのか、またまた気になるシリーズの出現だ。

細木原青起「ふし穴から」表紙
『ふし穴から』細木原青起
(中央美術社=漫画六家撰/昭和6)外函

【2023年3月追記】銀座古書の市/漫画六家撰/中央社ユーモア文庫
松屋銀座の「銀座古書の市」は、毎年1月に開催されていました。
コロナ禍により2021年から中止が続いており、今のところ2020年の第36回が最後の開催となっています。
100円均一というような特価本の大放出はありませんが、1000円前後で買える本はありますし、美術展の図録などは案外と安い値で並んでいます。古い絵葉書なら1枚2、300円から手に入ります。
全体的には精選された古書の勢揃いと言えるでしょう。
江戸時代の和本や画幅なども多く出品されますし、数々の貴重書と合わせて、普段は目にすることの少ない逸品に接する絶好の機会です。
ひとつひとつの品物(と、その売価)には息を呑みますが、決して堅苦しい雰囲気ではありません。
古書市に隣接する会場では陶器市を開催していたりします。
今や東京では数少ないデパート古本市。また、銀座では唯一の古本市でしたから、ぜひ再開してほしいものです。
  ◇
「漫画六家撰」は、昭和4年から5年にかけて中央美術社が刊行しています。

『退屈世界』和田邦坊
『女性美建立』田中比左良
『裸の世相と女』下川凹天
『尖端を行く』河盛久夫
『ふし穴から』細木原青起
『ユーモア錠剤』宍戸左行

以上の6冊です。
漫画と言っても、現在のコマ割りとは様式が異なり、当時は、ひとつのコマ絵に文章を添えた「漫画漫文」です。
2011年の段階で全6冊のうち4冊までが集まったのですが、それから10余年、『尖端を行く』だけは未だ入手に至っておりません。
  ◇
中央社の「ユーモア文庫」は、なかなか全貌がつかめません。
「国会図書館」や「日本の古本屋」の書誌情報によると、以下の5冊が確認できます。

『百万円合戦』佐々木邦
『落第先生』玉川一郎
『青春会話』宮崎博史
『世相談義』徳川夢声
『梔子姫』摂津茂和

終戦後の昭和21年から22年頃に刊行されており、その当時続々と出版された、いわゆる仙花紙本の一種であったのかとも思われます。
『梔子姫』は第6巻ですので、少なくとも6冊はあったはずだとも思うのですが、あるいは刊行されなかった欠番があるのかもしれず、詳細は不明です。
収録の作家陣は、いずれもユーモア小説ではお馴染みのベテラン勢です。
その後、『落第先生』と『世相談義』は手に入れることができたのですが、残りの『百万円合戦』『青春会話』はまったく見かけません。
古本世界のどこか片隅には、第7巻、第8巻、誰も知らない書目が眠っているのかも?

摂津茂和「梔子姫」表紙
『梔子姫』摂津茂和
(中央社=ユーモア文庫/昭和22)

【2023年3月追記の追記】中央社ユーモア文庫
この日の3か月後に、書誌情報には載っていなかったユーモア文庫を買っていました。

『家族は五人です』乾信一郎

この1冊が既述の5冊に加わって、計6冊の書目が判明したことになります。
『家族は五人です』を購入した日については下記ご参照ください。
【2011年4月22日/2023年3月追記】書窓展のあきつ書店で廉価本いろいろ