【2011年4月22日】
10時過ぎ、東京古書会館、書窓展。
いざ、あきつ書店!
駆けつけてすぐ、北町一郎『第五戦線』(ユーモア小説ではなく「スパイ小説」と銘打ってあった)を手にとって幸先よろし。
この調子で駆けつけ3冊だ、などと、うかうか喜んでいる隙に、並み居るツワモノが右から左から山脈のごとく立ちはだかり、新参は麓へ追いやられる。
肩と肩との谷間の向こうに見えるのは、宇井無愁、しかし手を伸ばせない。
ツワモノA氏が無愁を手にとる。パラとめくって元に戻した。ほ。
ああ、この眼前の背中の山にトンネルを掘りたい。
ツワモノB氏が無愁を手にとり、パラとめくって、手許に確保してしまった。とほッ。
物欲しげに後ろから覗き込むと『ねずみ娘』という本だった。
B氏はすでに両手いっぱいに収穫を抱えており、頰がゆるんでいる。しかし眼の奥が据わっている。あきらかに玄人の威厳が漂う。『ねずみ娘』……、おとなしく引き下がるよりほかはあるまい。
ただ、これで終わらないところが、あきつ書店の懐の深さなのだろう。
このあと、『ねずみ娘』の代わりの宇井無愁、『きつね馬』が飛び出したり、ふたたび北町一郎の、今度はユーモア小説『ぬかみそ亭主』が現われたり、先程のがっかりを帳消しにして余りあるほどの落穂拾いに恵まれた。
その他、あきつ書店では、中村正常『ボア吉の求婚』が5800円、さすがにこれは手が出せず。
一旦は抱えた『女湯の旅』を最後になって手放したのは、題名から期待されるような(何を期待するのだろう)粋筆ではなく、女湯から見る世相(著者は女性)というような社会派の随筆だったからなのだが、それにしたって装幀は清水崑だったし、価格は300円だったし、どうして買わなかったのかと、やや後悔。
このあいだ買ったばかりの『横顔の提督』摂津茂和とも遭遇した。本の状態は今日のほうがずっと良好で、表紙も汚れていない。このあいだは2000円で買ったのだが、今日は400円。俄かに歯痒いが、2冊は要らないか。古本はいつも時の運。
購入メモ
*書窓展/東京古書会館
『第五戦線』北町一郎(新正堂)900円
『結婚適齢記』寺尾幸夫(新星工房)400円
『新刊月報・うきよ診断』昭和4年9月(三洋社出版部)300円
『きつね馬』宇井無愁(アルス)300円
『密会』安部艶子(鱒書房コバルト叢書)200円
『夫唱婦唱』寺尾幸夫(海原書房)300円
『ぬかみそ亭主』北町一郎(東方新書)300円
『家族は五人です』乾信一郎(中央社ユーモア文庫)200円
『ミス・ニッポン』南達彦(鱒書房ユーモア新書)300円
『秋扇帖』宇井無愁(日進社)300円
『活動屋紳士録』山本嘉次郎(大日本雄弁会講談社)300円
結局、書窓展の買物11冊は、すべてあきつ書店から。
あきつ、あきつと、こういう買い方は、露骨というのか、品が無いようでもある。
けやき書店の棚では奥野他見男『温泉場の女』が函付2500円だったり、また別の棚では『欧州の人肉市場』という戦前の1冊(函付2000円)が不思議な魅力を放っていたりもしたのだが、300円あたりの廉価本ばかりを抱えている身には大変な高額品に思えて手が出せなかった。
戯れ言を述べるならば、いちどこの会場をすべて使って「あきつ展」を開催してもらいたいのである。
ミロンガで珈琲を飲んだあとは、小宮山書店のガレージセールで『死の家の記録』ドストエフスキー(新潮文庫)100円、田村書店で『古書遊覧』別冊太陽102号(平凡社)600円、長島書店で『カフェ・パニック』ロラン・トポル(創元推理文庫)200円、店頭から1冊ずつの拾い歩きをして、次は五反田へ。
南部古書会館のアートブックバザール(ABB)。
サンリオ刊『やなせ・たかし画集』の価格が1万円というのは凄かったが、マルセル・エイメ『緑の牝馬』2100円を、ずいぶん迷った揚句に見送る。
ABBは、古書の展示の仕方も、それに附される価格も、他展に較べて芸術的(?)なのだ。
『民謡小唄新曲集』鹿島鳴秋編、500円の誠文堂十銭文庫をちんまりと買う。
【2023年3月追記】中央社のユーモア文庫ふたたび
この日の書窓展で中央社「ユーモア文庫」の1冊、乾信一郎『家族は五人です』を買っています。
中央社のユーモア文庫については、日記2011年1月28日の追記欄にて、「国会図書館」の所蔵一覧や「日本の古本屋」書誌カタログから判明したタイトルを5冊記しています。
『家族は五人です』はどちらにも掲載されておらず、同欄では書き漏らしていますが、日記当日の3か月後に、自分で買っていたことをすっかり失念していました。
改めて記しますと、
『百万円合戦』佐々木邦
『落第先生』玉川一郎
『青春会話』宮崎博史
『世相談義』徳川夢声
『梔子姫』摂津茂和
『家族は五人です』乾信一郎
以上の6冊となります。なお『家族は五人です』は第4巻として刊行されています。
戦前や戦後すぐの刊行物は、国会図書館に収蔵されていないことが珍しくありません。
そういう本と古本屋で遭遇することもまた、決して珍しくはありません。
古本の山を掻き分けて進んでゆくと、どこにも無いはずの本、しかし目の前に確かに存在している本、どこからともなく現われます。
中央社ユーモア文庫については下記ご参照ください。
→【2011年1月28日/2023年3月追記】趣味展から銀座古書の市へ行ってまた神保町
(3月追記欄にさらに追記を書き加えておきました)