【2011年10月3日/2023年5月追記】穴八幡宮の早稲田青空古本祭

【2011年10月3日】

「早稲田青空古本祭」チラシ
《早稲田青空古本祭》第26回/チラシ

早稲田穴八幡宮、青空古本祭。
空気はひんやりと肌寒く、日向が懐かしい季候となった。
馬場下町の交叉点から参道の階段を登る。登り切って、善男善女ならば、まず神殿に参るだろう。だが境内の古本が目に入ってしまうと、この身体はもはや言うことを聞かず、参拝よりも古本に直通してしまう。
書棚に取りついてほどなく、ここはじつに静かだということに気づく。神社の境内なのだから静かなのは当然なのだが、野外の古本市と言えば、新橋SL広場や池袋西口公園や神田古本まつりや、街頭のざわめきとともにあるのが大抵だ。
それで、この余所とは違って俗世を仕切る静寂は、百円の文庫本にも気品を与えるようである。
もちろん街の喧騒のなかで古本を探すのは一興で、めぼしい本を見つけた瞬間には、それら騒音はふしぎと消え去るものなのだが。
1冊目は鹿島孝二のユーモア小説『青春遊覧船』(東方社/昭和29)600円。装幀は田中比左良が担当。
2冊目は大屋幸世『蒐書日誌』の第4巻(皓星社/2003)が単独で出現。1冊ずつ買い集めてきた『蒐書日記』もこれで全4冊が揃った。
3冊目、アサヒ写真ブックが20冊ほど積んであって、こんなにまとめての出品は珍しい。期待して1冊1冊見分してゆくと……、あった、探していた書目の『世界の機関車』鷹司平通編(昭和30)が登場する、800円。
穴八幡宮の古本祭と言えば、どうしても去年の一件が……、買いそびれた『内藤ルネ展』のことが思い出される。
1年後にあるわけはないのに、もしかしたら今年もあるのじゃないかと、逃した魚のマボロシを未練たっぷりに引き摺りつつ……今年は今年で、サンリオSF文庫『時は準宝石の螺旋のように』、持っているようないないような、かぼそい記憶を手繰れど、思い出せず、やるせなし。
価格1575円。重複を覚悟で買うにはちょっと冒険だ。
無難を選んだつもりで手放したのだが、まさにそのとき、古本の神様の高笑いが天から降り注いだのではなかったか?(家に戻って確かめると、持っていたのはサンリオSF『準宝石…』ではなく、ハヤカワSF『夢みる宝石』だった)

鹿島孝二「青春遊覧船」表紙
『青春遊覧船』鹿島孝二(東方社/昭和29)
「世界の機関車」表紙
『世界の機関車』鷹司平通編
(アサヒ写真ブック/昭和30)

高田馬場から中野に移ってブロードウェイ。まんだらけにて『定食学入門』今柊二(ちくま新書/2010)210円。
高円寺まで歩いてネルケンで珈琲。
都丸支店の店頭棚を巡回し、ガード下四文屋で焼酎と煮込みとセンマイ。
最後はささま書店、買物ナシ。

【2023年5月追記】穴八幡宮の古本市
「読書の秋はワセダから」を合言葉にして、毎年10月1日から行なわれていたのが「早稲田青空古本祭」です。早稲田古書店街の古本屋さんが集結しました。
会場は穴八幡宮。早稲田大学の近く、馬場下町交差点の角にあります。
交差点から鳥居をくぐると、石段が続いていて、その段々の途中にも文庫本の平台が並べてあったりして、気分が高まります。
石段を登り詰めると境内にはテントが設置され、古本が出迎えてくれます。
小高い丘の上という立地なので街路の喧騒は遠ざかり、また大樹の杜に囲まれているということもあり、粛々とした雰囲気が漂います。新橋SL広場や池袋西口公園での古本市とは好対照の古本風情でありました。
2014年は穴八幡宮の境内改修のため中止という告知があり、翌年に期待していたのですが、2015年に開催の知らせはなく、どうやら穴八幡宮の古本祭は境内の改修を境にして終了となってしまったようです。
2013年の第28回が最後の開催だったということになります。
東京および関東一円では、神社やお寺の境内での古本まつりは他では見られず、定期的に行なわれるのは穴八幡宮が唯一だっただけに残念です。
一方、大阪では、5月の連休と10月に四天王寺で、さらに10月には大阪天満宮で、古本まつりが開催されます。
また京都では8月に下鴨神社、11月初めには百万遍知恩寺で古本まつりがあります。コロナ禍のもと、2021年6月には平安神宮の境内で古本まつりが初開催されました。
大阪や京都では神社仏閣での大きな古本まつりが、年中行事として定着しています。
ずいぶん昔には、浅草寺の境内で古書即売展が開催された時期もあったようですが、東京周辺ではなぜ神社やお寺での古本まつりが根付かないのか、関西と関東の、風土の違いということなのか、興味深いところでもあります。
もっとも、一般の人たちが参加する一箱古本市に関してはその限りではないようです。
私自身は、本駒込の養源寺や、埼玉の川口神社での一箱古本市しか訪れたことはありませんけれど、1年に何回かは、都内や近県の寺社でも小さな古本市が開かれているようです。
浮き世から隔てられているようなあの清閑な空間は、古い書物との相性が、案外とよいのかもしれません。
しかし目先の古本で頭の中が一杯になってしまって、神社でもお寺でも古本を買うだけ買って、お参りもせずに帰ってきてしまうのは、善男善女の心得とは言えません。

〈関連日記〉
2010年の早稲田青空古本祭の探訪記は下記をご覧ください。
【2010年10月1日/2023年1月追記】西部展、穴八幡宮の早稲田青空古本祭、五反田アートブックバザール