【2011年5月1日】
八王子古本まつり、初日。
今日の天気予報は一時雨。朝の空は灰色の雲に覆われている。しかしすぐに降り出しそうな気配はない。
屋外の古本市なので雨に降られたら台無しだが、八王子ならば佐藤書房もあるし、昼から出掛けることにする。
げんせん舘のテントで見かけた辰野九紫『むすめ教育』は、もうずいぶん前から即売展に出品され続けている1冊である。
最初に見かけたときから今日まで、値札は5000円のまま。値段もあってか、ずっと売れ残っているようである。2000円、せめて3000円なら買ってみたいような本だけれど、値下げの様子はない。函付で状態も良好だから、これは正当な評価なのだろう。
今日もまた手にとって、棚に戻す。
何も買えないまま最後のテントまで進んだところで、植原路郎の食べもの随筆『そばの味』(六月社)。
いつだったかの即売展で購入あと一歩まで迫りながら手放した本だ。
しばらくぶりの対面となったが、手にとって見ると、今日の1冊は表紙に点々と汚れが付着していてざらついている。これじゃあ駄目だなと思いつつ、裏表紙をめくると、大阪の天牛書店の書店票が貼り付けてあった。
「古本誠実買受・天牛書店・千日前電停前」
指先ほどの小さな紙片だが、もしかしたらこの本は天牛新一郎氏の手を通り過ぎてきた経歴を持つのではないかと思うと、この紙片のためなら少しくらいの表紙のざらざらは我慢して購入する。150円。
続いて佐藤書房では、現代教養文庫の牧逸馬ミステリー集『第七の天』を315円という手頃な値段で発見。
美術図録の棚に2種類の柳瀬正夢展図録が置いてあった。
ひとつは図録と資料集の2冊組(武蔵野美術大学刊)で、これは即売展などで割合に見かける。
もうひとつは愛媛、福岡、宮城と巡回した〈生誕百年記念展〉の図録で、こちらは今まで存在すら知らなかった。関東での展観がなかったから、東京の古本屋にはあまり出回らないのかもしれない。
3675円とやや値は張るが、百年記念のほうを買っておこう。
帳場の番頭さんは、来る客来る客に「放射線は行った?」と声をかけている。私にもその声は向けられて「どうだった?」と訊かれたので「1冊だけでした」と答えると、「あら残念」と我が事のように残念がってくれたのだった。
まつおか書房の1号店2号店をざっと眺めて、そういえば少し離れた場所にある3号店は未訪であることを思い出し、そちらへも足を延ばしてみた。
雑然とした店内では数名の若い店員さんが発送の荷造りに励んでいた。
売場は4階まで続くのだが、普段は無人であるらしく、上の階へ行くときには1階のロッカーに手荷物を預ける仕組みだった。
外階段を昇って2階の部屋に入ると、明かりは消えている。電灯のスイッチを押す。図書館の閉架書庫の趣きだ。
3階は哲学、心理、社会学など専門書の部屋ということなのでパス。
4階が美術、文学。平凡社版『松本竣介画集』の現物を初めて目にする。5万3千円也。
これだけたくさんの本があるというのに、結局、これという1冊はなく、手ぶらで、あくびをしながら階段を降りる。雨がぱらつき始めたようだ。
【2023年3月追記】天牛書店など
「天牛書店」は大阪の老舗古書店。
現在は江坂本店(吹田市江坂)と天神橋店(天神橋筋商店街)の2店舗を構えます。
いつか行ってみたい古本屋さんの筆頭に挙げられる1軒です。
創業者の天牛新一郎氏はたいへん人望が厚く、多くの文人たちにも慕われていたそうです。
天牛新一郎氏には『われらが古本大学』(ブレーンセンター/1987年)という著書があります。
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佐藤書房の番頭さんが「放射線は行った?」と問いかけていますが、八王子古本まつりの会場が「西放射線ユーロード」と呼ばれる商店街(遊歩道)です。
閉架式図書館のような「まつおか書房3号店」は、すでに閉店しています。
八王子の古本まつりと古本屋については下記の追記欄をご参照ください。
→【2010年10月12日/2023年1月追記】佐藤書房にて『夢野久作の日記』