【2011年5月15日/2023年3月追記】ちいさな古本博覧会、本の五月祭

【2011年5月15日】
10時、西部古書会館。ちいさな古本博覧会。
朝一番と言っても2日目なので、お客さんの数はまばら、売るほうも買うほうものんびりしている。
所々、隙間のできた棚に、古本も斜めに寝そべって、のんびり。
帳場の中から「夜更けに怪奇小説を読んでいたら誰もいないはずの廊下から物音がした……」と、奇特な読書体験を語っている声が聞こえてくる。開け放した入口からは爽やかな外光と薫風とが、部屋の奥にまで届く。
しかし、この「のんびり」は、やはり兵どもの夢の跡なんだろうか。
どこをどう見てもこれという1冊とは巡り合わず、もちろん何もないわけじゃないけれど、長新太『キャベツだより』は2100円であるし、三木鶏郎『続々冗談十年』はもう持っているし、段々、棚の隙間を恨めしく凝視してはこの隙間にこそきっとあったはずなのだ、そして、昨日それら好書や珍本を根こそぎ抜き取ったのは誰あろう私の分身にほかならぬのだと、あらぬほうへ妄想は走る。
困ったときの岩波写真文庫……、箱に並んだ30冊ほどの中から『自動車の話』をようやく選び出す。200円。

ネルケンへ行くと準備中の札が掛かっていたので北口へ歩を返し、古書会館の近くのあづま通り商店街。
昨日今日、この商店街で「本の五月祭」という路上古本市が開かれている。古書会館の古本博覧会と共催とのことだ。
12時から始まるのだが、時刻は恰度正午。こちらもまだ開店準備中といった趣きのお店が多い。
店主さんが縁台に本を並べているそばから手を伸ばしてごそごそやるのは、がめついというのか、行儀が悪いようにも思われたので、ひとまず中野ブロードウェイへ向かう。
4階のまんだらけでヨゼフ・チャペックの装丁集『チャペックの本棚:ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン』(ピエ・ブックス)1890円。
売値にややためらうが、今日は鞄の中に車中の読書用としてヨゼフの童話集『こいぬとこねこは愉快な仲間』が入っているし、これも古本と古本との縁だろう。まんだらけで久しぶりに買物をした。

「チャペックの本棚」表紙
『チャペックの本棚:ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン』
ヨゼフ・チャペック/千野栄一〔他〕訳(ピエ・ブックス/2003)

さて、高円寺のあづま通りに戻って、本の五月祭。
まったく今日は、屋外を散歩するには絶好の日和だ。
さらにその路上には古本があるのだから言うことなしだ。
しかし本のすぐ向こうに売り手の顔が見えるというのは、どうにも照れくさい。
お安くしておきますよ、なんて声を掛けられるとドキッとなって目は泳いでしまう。
3冊100円の絵本などもう少しじっくり探してもよかったのだが、結局は、何も買えずに通り過ぎてしまった。

ネルケンはまだ準備中。今日はオヤスミなのかもしれない。
荻窪へ移動して、ささま書店で『東武』花上嘉成/安田理(カラーブックス)315円と、『古本屋慕情』中村靖則(平安工房)420円。
吉祥寺の古本センターにも立ち寄って『女性西部戦線』丸木砂土(風俗資料刊行会)1000円。

中村靖則「古本屋慕情」表紙
『古本屋慕情』中村靖則(平安工房/2011)

【2023年3月追記】本の五月祭(一箱古本市)/青梅多摩書房
西部古書会館の「ちいさな古本博覧会」は2012年10月で終了となっています。
〈関連日記〉
【2010年10月30日/2023年2月追記】西部古書会館の古本博覧会
  ◇
古本博覧会と同時開催の「本の五月祭」は、1回限りの開催だったのかどうか、はっきりしません。
訪れたのはこの年だけだったと記憶しているのですが……。
商店街の軒先を借りて古本の露店が連なるという、一箱古本市でした。
並んだ本の至近に店主さんがいらっしゃいますから、面談を受けているような気分にならないこともなく、つい緊張してしまいます。
実際は、やたらと話し掛けられるというわけではありませんし、声を掛けられたとしても、一箱古本市に参加する店主さんはまず気さくな人たちばかりですから心配無用です。
過剰な思い込みで、要らぬ緊張感を抱いたりするのは得策ではありません。
即売展や古本まつりの魅力のひとつは、店主さんや店員さんの視線を気にせず、思う存分古本にのめり込めるというところにあるのですが、一箱古本市はその対極で、店主さんとの交流こそが大きな魅力と言えるでしょう。
と、頭では分かっているつもりでも、持って生まれた弱点なのか、和気藹々の雰囲気というものは、なかなか自然に解け込めません。
買いたい本が見つかれば、その本を間にはさんでの二言三言は愉しいものです。
買いたい本がうまく見つからない場合でも、そのときはそのときで堂々と買わなければよいじゃないか……などと、ぐずぐず反省します。
  ◇
『古本屋慕情』の著者、中村靖則氏は「青梅多摩書房」のご主人です。
店舗での販売を行なっていた時期もあったそうなのですが、その後事務所営業へ移行しています。
東京古書会館の即売展「我楽多市」と「城南展」に参加されていて、児童読み物、探偵小説、SFの品揃えがいつも圧巻でした。大量に出品される古い絵葉書も毎回恒例でした。
しかし、我楽多市は2022年7月に、城南展は2023年1月(青梅多摩書房は参加せず)に、どちらも休会となってしまいました。