【2011年8月19日】
10時、御茶ノ水駅を降りると豪雨。
傘は持っていたが、古書会館まで歩くあいだにズボンはびしょ濡れ。
ぐろりや会。
何も見つからずに一巡。今日は手ぶらで終わるかと、それでも二巡。
だいぶ抜き取られて、すっかり隙間の生じた棚、斜めに傾いだ雑誌にはさまれて中央社のユーモア文庫が埋もれていた。玉川一郎の『落第先生』。
値札を見ると元値の2100円が線で消されて半額の1050円に値下げされている。出品は横浜のなぎさ書房。
中央社ユーモア文庫も、いつのまにか3冊が集まった。全部で何冊くらい発行されたのだろう。
会館の外に出て荷捌場の隅の喫煙所で煙草を吸っていると、どこかの古本屋のご主人(首から下げた入館証でそれと判る)が、遠慮しないで座ってください、と仰有る。
灰皿の周りには3脚ばかりの椅子が置いてあって、いつもケムリ派でにぎわっているのだが、出入りの古書店のご主人や、ご主人と顔馴染みの常連客が歓談などしていれば、そのなかに割り込んで腰掛けるわけにもゆかない。
ちょっと離れたところに立って、そこで交わされる古書界の噂話や消息なんかを聞くともなしに聞くというのも、それはそれで小さな愉しみである。
さて、折角「どうぞ」と勧められたのだから、初めてその椅子に座ってみた。
並居る古書店主たちの臀部を支え続けてきた椅子である。座ってみれば普通の椅子である。
三省堂書店8階の特設会場では、夏の古書市Special。
『「古本屋の書いた本」展目録』という冊子を見つける。発行は東京都古書籍商業協同組合。これは有用なガイドブックになりそうだ。300円。
丸尾長顕『女性作戦』(東都書房)800円、八幡城太郎『俳句半代記』(東京文献センター)300円と、合わせて購入する。
4階の三省堂古書館は買物ナシ。
新刊売場の会計横に、今年の図書目録が各社いろいろ置いてあったので、法政大学出版局、青土社、書肆山田の3冊を貰う。
ミロンガに落ち着いて、さっき古書会館で入手した4冊の目録をテーブルに置く。古書目録をひろげる瞬間は、どうしてこんなにわくわくするのだろう。
まずは今日の『ぐろりや会古書目録』をおさらい。それから『古書里艸古書目録』第90号は、品揃えが豊富で(特に日本文学)見応えあり。ただし値段も鉄壁。
『青梅多摩書房古書目録』第6号に目を通し、最後は次週『書窓会古書即売目録』の予習をする。みはる書房の出品番号165番『婦人記者化け込みお目見得廻り』大正5年、これは以前の書窓展であきつ書店が出品していたことがあった、たしか4500円だった。こちらは3000円か。その隣り166番は『恋の丸ビル』大正14年、発行カネー社。この「カネー社」にぐっと迫るものがある。1万5千円也。
あきつ書店のページでは中村正常『隕石の寝床』が6500円。これは入手済だから心安いけれど、その隣りも正常で『二人で見た夢』8500円。「小野佐世男画・新作ユーモア全集」の添書きあり。昭和11年刊行。新作ユーモア全集は初見の叢書名だ。
目録のページを閉じて、昂奮半分、溜息半分(値段)、煙草をプカー。
この雨では店頭棚は見られないし、今日はまっすぐ帰ることにする。
【2023年4月追記】東京古書会館の喫煙所
東京古書会館の玄関横は、荷物の積み下ろしをするための荷捌場になっています。
以前までは片隅に喫煙所が設けてありました。
即売展を見終わったあとはまずそこへ立ち寄って一息つきます。
周りに誰もいない時もありますし、御老体が一人、いぶし銀の面持ちで紫煙をくゆらしている時もあります。
時には愛煙家の古書店主たちが集まって来て、雑談の花を咲かせたり、お昼御飯はどこへ食べに行くかの相談をしていたり。
その脇で煙草をふかしながら、あれやこれやの面白話をそれとなく聞いているという寸刻は、即売展の余情でありました。
2020年の春先まではそうだったのですが、それから新型コロナウイルスの猛威が始まって、2020年の秋、久しぶりに東京古書会館を訪れてみると、荷捌場の灰皿はきれいに片付けられていて、禁煙になっていました。
2020年4月からは各所の灰皿が一掃されるという成り行きでしたから、おそらくはそれに従っての撤収だったのではないかと思われます。
神保町界隈には道端の公共喫煙所が見当たらず、この古書会館の灰皿はたいへん貴重な拠り所でしたが、流れゆく世の中の流れには逆らえません。
もしかしたら、屋上には今なお灰皿があるのかもしれないと、8階建ての古書会館のてっぺんを見上げないこともないのですが、もしそうだったとしても、残念ながら一般客は地階の即売展会場の他は立ち入ることができません。
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〈関連日記〉
中央社版ユーモア文庫
→【2011年1月28日/2023年3月追記】趣味展から銀座古書の市へ行ってまた神保町