【2012年5月14日/2023年12月追記】まんだらけで『OK人生』

【2012年5月14日】
早稲田大学の青空古本掘出し市、購入なしの螻蛄おけらに終わる。
早稲田古書店街をぶらぶら歩いて、何も買えずに高田馬場まで。
駅前、芳林堂書店の古書売場にも久しぶりに寄って、やっぱり螻蛄。
もう1冊も古本を買えないのじゃないかと弱気になるが、こうして古本に伝って歩きながら、今週は趣味展、来週は松屋展、遊古会、和洋会、中央線展……頭の中をまだ見ぬ古本で一杯にする。
これ以上に何を望もう?

中野ブロードウェイに寄道。
4階のまんだらけで、長編ユーモア『OK人生』(光風社/昭和32)1050円。
著者は岩崎栄、知らない作家だなあ。
小口の地に〈札幌・沖本貸本店〉の印が捺してある。
岩崎栄は知らないけれど、沖本貸本店の名には見覚えがある。『ミステリーファンのための古書店ガイド』に載っていた。

岩崎栄「OK人生」表紙
『OK人生』岩崎栄(光風社/昭和32)

中野から徒歩で高円寺。
越後屋書店と都丸支店をまわり、ガード下の四文屋へ。
焼酎を呑みながら『OK人生』をめくると、当時の貸出票がそのまま貼ってあった。
会員番号〈す6〉を筆頭に、9名の会員が借りたようだ。
版元の光風社(神田錦町)は初見の出版社だが、刊行書には吉川英治、柴田錬三郎、松本清張など、大物作家も名を連ねている。
岩崎栄『喧嘩中納言』が近刊で、宮下幻一郎の『童貞先生青春記』が気になる1冊だ。
昭和30年代の札幌の空気をたっぷり吸い込んだ本が、半世紀余を経て、今、高円寺ガード下の初夏の風に吹かれている。
どこをどう巡って来たものやら、いつもながら、なにやら不思議だ。焼酎もう一杯。

【2023年12月追記】芳林堂書店高田馬場店ふるほん横丁/沖本貸本店
高田馬場駅前の新刊書店「芳林堂書店高田馬場店」4階には、一時期まで常設の古本売場「ふるほん横丁」がありました。
開設は2010年3月25日。早稲田の古本屋さんを中心とした数軒が参加して、共同で出品していました。
しばらくの御無沙汰の後、2018年11月中旬に訪れてみると古本はどこにも見当たらず、既に撤退していたことを知ったのですが、さらにその後、営業終了が2018年10月31日だったと知るに及んで、我が身の鈍感を呪いたくもなりました。
なぜ1か月早く訪れなかったのか。しかしもう遅い。
芳林堂書店高田馬場店では、2022年(4月)、2023年(1月から3月迄)と、店内3階の特設コーナーで「古本マルシェ」を開催しています。
古本の灯は消えていませんでした。
2024年以降も期待したいところです。
  ◇
「沖本貸本店」は札幌市中央区南1条西24丁目にあった貸本屋です。
日記当日のまんだらけには『OK人生』の他にも沖本貸本店の印を捺した本がたくさん並んでいて、ほとんどは時代小説だったと記憶していますが、いちどに大量出品されたということは、おそらく店仕舞いをしたあとの在庫が処分されたのだと思われます。
野村宏平氏は『ミステリーファンのための古書店ガイド』のなかで以下のように紹介しています。

《この沖本貸本店は貸本屋全盛時代の名残をそのままとどめている奇跡的な店なのである。手書きの看板も木枠のガラス戸も雰囲気満点だが、店内もそれにたがわない。三方の壁を埋め尽くしているのは、昭和三十年代の貸本小説。当時のスリラー小説、明朗小説、時代小説が黄ばんだパラフィン紙に包まれてズラリと並ぶ様子は、まるでタイムスリップしてしまったかのような気持ちにさせられる。》
――野村宏平『ミステリーファンのための古書店ガイド』(光文社文庫/2005)

書き写しているだけで頭がぼんやりしてきます。
行ってみたい。今すぐタイムスリップしたい!
『ミス古書』(題名略します)は、現在新刊では流通していませんが、図書館で借りるか、できれば、古本屋さんで探してみてください。
沖本貸本店の店舗の写真が掲載されています。18ページです。
小さな写真ではありますが、「奇跡的な店」の一端を窺えます。
ガラス戸の向こう、書架にずらりと並んだ本の影が見えます。
いくら目を凝らしても背表紙の文字は読めませんけれど、そこに納まっていた蔵書の1冊が時を経て町を経て、この手許に流れ着いたのだと思うと、感慨ひとしおです。

〈関連日記〉
『ミステリーファンのための古書店ガイド』
【2012年4月13日/2023年11月追記】古本を買わない古本散歩・川越篇