【2010年9月1日/2023年1月追記】彩の国古本まつりで1冊、それから古本屋探訪失敗

【2010年9月1日】
真昼の電車に揺られて所沢。彩の国古本まつりへ。
3時間ほど歩きまわって、農業百科文庫『ビール麦の増収栽培法』を1冊だけ買う。瀧島英策、松平悌共著、昭和27年刊。105円。
同書にはビール麦のほかに「ホップ栽培法」も併録されており重宝だが、所沢駅構内のコーヒー店で斜め読みをしていると、やはり私はビール麦やホップを栽培するよりも、出来上がったビールを飲むことのほうが本望だ。こんな猛暑の午後は、古本ではなくよく冷えたビールであるべきなのだろうか。

瀧島英策・松平悌「ビール麦の増収栽培法」表紙
『ビール麦の増収栽培法』瀧島英策/松平悌
(朝倉書店=農業百科文庫/1952)

地図で調べておいた2軒の古本屋を訪ねてみることにする。
所沢から2駅先の久米川で降りて、下井草書房。古書目録に載っていた住所をたよりに、店舗の場所はすぐに判った。しかし営業しているのかどうかが判らない。
屋号を示す看板はなく、郵便受に書店の名刺が貼ってある。
美術展のポスターや版画の貼り出されたガラス戸の隙間からこっそり窺うと、薄暗い室内に、重厚な書物の影が浮き世から超越していて、冷やかしの客を遠ざけていた。引き返す。

続いて目指すのは即売展で御馴染みのぶっくす丈。
萩山駅から、いちど道を間違えて、ぶっくす丈の番地の辺りを訪ねると、じつに閑静な住宅街だった。
何だったのかは忘れたが、何かの教室の看板が民家の玄関先に掲げてあったほかは、およそ商店と呼ぶものの面影はない一帯であった。
ぶっくす丈は、店売りは行なっていないようだ。店舗を持たない古本屋だから、あれだけ頻繁に即売展に参加されているのかもしれないと、現地をうろうろしてようやく思い至るような迂闊である。

古本屋はどこにもない宅地から一段高くなった土手は自転車道になっていて、多摩湖まで延びているという。
散歩者の行き交うその道に面して、あまり手入れのされていない庭に、枯れかかった花が群がっていた。
4輛連結の黄色い西武電車に乗って国分寺へ。
ブックセンターいとう国分寺店に寄ってみるが何も見つからない。
古本は買わず、駅前のマルエツでポテトチップスを買い、電車に乗って帰る。

【2023年1月追記】
地図で調べたと言ってもグーグルマップではなく道路地図です。
それですから、こういう結果を招きます。
グーグルマップがいつ頃から普及し始めたのかは知りませんが、当時の私には無縁の世界でした。
未知の古本屋へ行くとなると、『全国古本屋地図』(日本古書通信社)や『古書店地図帖』(図書新聞)が、ますは頼みの綱でした。
それ以外の方法では、古書目録や電話帳に記載されている住所を調べ、地図と照らし合わせて見当をつけてから現地へと赴きます。
いずれにしても最新の情報はなかなか得られませんし、行ってみたらすでに閉店していて跡形もなかったということがよくありました。
あるいはまた、この日のように、事務所営業とは知らずに訪ね歩いて、古本には行き当たらずに彷徨するという無駄足も、たびたびです。
たとえば即売展の古書目録では、店舗販売をしているのか事務所のみなのか、判然としない古本屋さんが結構あって、難渋します。お店によっては、住所の横に「無店舗」と添え書きがあり、たいへん助かります。
  ◇
「下井草書房」は外国文学、洋書を専門に扱う古書店です。
現在も同じ場所にあり店舗営業も行なっていますが、来店の際には事前の連絡が必要だそうです。
お店の印象を思い起こしますと、当時からすでに、連絡のあったお客さんだけを迎え入れていたのかもしれません。
この日、もしも飛び込みの入店が許されていたとしても、洋古書が相手ではなす術もなく引き下がるしかなかったでしょう。
ガラス戸越しにそっと覗くのが、どうやら身の程だったようです。
下井草書房は、西部古書会館の「中央線古書展」に参加されています。
  ◇
「ぶっくす丈」は数多くの即売展に参加していましたから、その屋号はくっきりと頭に刷り込まれていて、挙句にはどこにも無い店舗を探しまわるような成り行きとなりました。
しかし日本古書通信社の『全国古本屋地図21世紀版』(2001年)を見ますと、板橋区のページにぶっくす丈が掲載されています。
東上線ときわ台駅の近くに店舗があったようです。
「高円寺から移転」と記してありますが、高円寺時代も店舗を構えていたのかどうか、詳しいところは分かりません。
2001年から2010年のあいだに、店舗を閉店し、事務所営業へ移行したのでしょう。
ときわ台のぶっくす丈へ今すぐ行きたい、と思わずにはいられません。
即売展のぶっくす丈につきましては下記もご参照ください。
【2010年7月30日/2023年1月追記】東京古書会館のがらくた市から京王百貨店の東西老舗大古書市へ
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「彩の国古本まつり」はその後「彩の国所沢古本まつり」と名称を改め現在も年4回の開催です。
以下をご参照ください。
【2010年3月3日/2022年12月追記】彩の国古本まつり初探訪