【2012年1月6日】
東京古書会館、下町展。
金木書店から『岡本一平展』図録(朝日新聞社/1997)420円。
同じく金木書店の棚から『浮世漫画』という明治21年刊行の和本、2100円を手にとったのだが、これは結局、手放した。漫画と言っても、植物とか動物とか日用品とかの素描集で、それはそれで面白いはずなのだが、なぜだろういつぞやの『唐土画譜』のときのような、どこかへ連れて行かれるような、痺れる感覚が訪れなかった。
玄書房の棚から芦原修二の短編小説集『はるひ夢幻集』(吟遊社/昭和50)300円。本に挟み込まれた栞には詩人の及川均や嶋岡晨が推薦文を寄せている。
古書英二で『粋人博士の体験的経済学』岡部寛之(あまとりあ社/昭和42)315円。
二の橋書店で『抽象』難波田龍起(緑地社/昭和61)300円。
計4冊。
ミロンガで珈琲を飲んだあとは、小宮山書店ガレージセールで『のらくろ先生と野沢』田河水泡(住吉屋旅館/1998)100円。野沢温泉の住吉屋旅館が発行しているのだが、小冊子とは言え、この〈奥信濃野沢のはなし〉シリーズは全12巻が刊行されているようで、出版を手掛ける温泉旅館が存在していたとは痛快だ。それでは古本屋を兼ねる温泉旅館は有りや無しや。
『笑府』上・下(岩波文庫/1996)2冊200円と合わせて購入する。
澤口書店の店頭で『シナの五にんきょうだい』ビショップ文/クルト・ビーゼ絵(福音館書店/昭和40)200円。「シナ」の表記が問題とされて絶版になった絵本だが、のちに瑞雲舎が復刊した際には訳者に変更があった。私の幼少期の愛読書のひとつだったのだが、引越しか何かのどさくさで、いつのまにか紛失してしまった。石井桃子訳の福音館書店版との対面は何十年ぶりだろう。
神保町の買初めのあとは、高円寺ガード下の四文屋に落ち着いて、焼酎梅割りで新年を寿ぐ。
最後は吉祥寺の古本センターに寄道してカラーブックスの『ブルートレイン』関崇博/諸河久(カラーブックス/昭和59)と、〈日本の私鉄〉シリーズでなかなか見つからなかった『京浜急行』吉村光夫(カラーブックス/昭和57)を見つける。どちらも200円。
【2012年1月7日】
西部古書会館、杉並書友会。
10時、人だかりのする棚を避けながらいちばん奥へ進むと、薩摩治郎八『ぶどう酒物語』(村山書店/昭和33)の背表紙が麗しい。売価300円。今日は好日。
そのほか、現代ユーモア文学全集9『鹿島孝二集』(駿河台書房/昭和28)200円、『プロレタリア文学』日本文学アルバム13(筑摩書房/昭和30)200円、『イタリア完乗1万5000キロ』安居弘明(交通新聞社新書/2010)100円、『中南米ひとり旅』富山妙子(アサヒ・アドベンチュア・シリーズ/昭和39)250円、廉価品を計5冊。
ガード下、都丸支店の店頭では『造本覚え書』内藤政勝(古通豆本/昭和52)300円と、『ある首斬り役人の日記』フランツ・シュミット(白水社/1988)300円。
ネルケンで珈琲を飲み、それから荻窪、新年最初のささま書店は購入なし。
【2012年1月8日】
昨日はあれから友人宅を訪れ、いつもとは違って上等なウイスキーなど奮発し、明け方まで快酔。
今朝は友人の愛娘と古本屋ごっこなど興じながら、そのまま、午後2時過ぎまで居座る。
夕方からは池袋で新年会だが、昨夜の今日ということで、さすがにけだるい。
ぼんやりと電車に乗り、やたらと喉が渇く。何かの沈殿物のように座席に沈み込む。
鬼子母神商店街では午後4時まで古本市をやっているが、最寄りの雑司が谷駅に着いたのは午後3時52分。もう間に合わないかもしれないし、何より、この地下鉄の座席から立ち上がるのが恐ろしく億劫なのだが、これから池袋で時間をつぶすのはなおさらに億劫なので、沈殿物は立ち上がる。
地上へ出ると、古本市の会場はすでに片付けが始まってはいたが、まだそのままの棚もあって、そのなかに麻生豊『嫁を探しに』(現代ユウモア全集刊行会/昭和4)を見つける。ユウモア全集のなかで、なかなか出くわさなかった1冊だ。ぽこりと出くわした。800円。
夕暮れの、都電の踏切を渡り、鬼子母神への参道を歩く。Y字路、欅並木、古い日本家屋……初めての土地だが、この季節この時間この場所を、どこかで見ているようなあるはずのない記憶に捉われる。曲がり角から着流しの三文文士がぬうっと現われて、時代を間違えたとでも言うように、また路地の奥へと引っ返す。
鬼子母神にお参り。信心など駅のベンチに置き忘れてきたようなこの頃ながら、こんな日はやはり、手を合わせてみたくなる。『嫁を探しに』を有難うございます。
明治通りへ出て、古書往来座に寄道するうちに恰度よい頃合となった。
午後5時、池袋駅で旧友3人と落ち合い、呑み始めれば連夜の快酔となる。
【2012年1月9日】
ずいぶん遠出をしたような昨日おととい。
果たしてほんとうに帰って来たのか、まだ何処かへ行きっぱなしのように思えてならぬ。
午後から立川、フロム中武の恒例古書市。『俗語と隠語』渡部善彦(桑文社/昭和13)1890円。
早く帰ってもうひと眠りするつもりだったのだが、何となく八王子へ行き、佐藤書房にて『死の舞踏』マーヴィン・ピーク(創元推理文庫/1988)315円、『山陽電鉄』山陽電鉄車両部/小川金治(カラーブックス/昭和58)315円、『ユーモア小説集2』(鱒書房軽文学新書/昭和30)105円。
*(購入書の刊行年〔元号か西暦か〕は該当書の奥付の表記に従っています)
【2023年7月追記】『女の愛読書』
日記には書いておりませんが、この4日間のうろうろのさなか、とあるお店で『女の愛読書』というエロ本を買っています。
いわゆる自販機本というのか、A4判の時代掛かった写真誌なんですが、いったいどんな本を愛読しているのか、題名に惹かれて買ったのですけれど、ビニール袋から取り出してめくってみると、しかしどこをめくっても、愛読書らしきものは写っていなかった。
〈関連日記〉
【1月6日】カラーブックス〈日本の私鉄〉シリーズ
→【2011年11月12日/2023年6月追記】古書感謝市でカラーブックス〈日本の私鉄〉
【1月7日】薩摩治郎八
→【2011年10月7日/2023年5月追記】城南展で薩摩治郎八、三茶書房で堀内幸枝と関口良雄