【2010年11月27日/2023年2月追記】中央線古書展、都丸支店、まんだらけ

【2010年11月27日】
いつもより30分ほど早く高円寺に到着。今日は中央線古書展。
西部古書会館の門はまだ閉まっていて、ガレージの棚や平台もまだ空っぽ。
すぐに室内から店主たちが現われて、紐でくくった本の束を、手際よく並べ始めた。
会館の前にたむろしていた15、6人、ぐぐっと門扉に張りついて、隙間から本の行方を凝視する。その瞬間の表情を、向こう側から見たらどうなのだろう、鬼気か滑稽か、はたまた餌を待つ珍獣の群れか……。
開門と同時に、各自、眼をつけておいた本へ飛ぶ。ご老体なども、ほんとうに飛んでいるとしか思えない早わざなのだ。
珍獣たちの食べ滓を、また別の珍獣=私がきょろきょろ。
カリジェの絵本と高群逸枝とにありついたところで室内も開場。まずはぶっくす丈の棚へ赴くと、全品半額の表示。太っ腹なのかヤケッパチなのかそれはさておき、前々から、いつもぶっくす丈の棚で気になっていた『さんどりゑ』も、芽出度く500円が250円になっていた。
一部、目録掲載品は半額ではなかったが、それでも『新あまのじゃく』は、目録価格1000円が600円に値下げされていた。
常田書店の棚では、日本小説文庫『青バスの女』を発見。本日の臍の1冊になりそうだ。
竹岡書店からは小野佐世男『猿々合戦』。目次を見ると、装幀も著者自装とのことなのでカバーが欠けているのは惜しい。しかし300円なんだから買っておこう。
土浦れんが堂書店の棚、ややッ、棚前の床の上に岩佐東一郎『二十四時』が無雑作に並べてある。以前、東京古書会館の即売展にて、この書を3500円で購入している。
戦々兢々、売価を拝見。300円! とほほ。
こうなると判っていれば、あのとき奮発しないで済んだのだが、こうなると判らないからこそ、あのときの1冊は世界にただひとつのものとして輝いていたわけなのだが……。
動揺をなだめつつ、キハ58、熱帯魚、モコ、と廉価本を拾い集めて終了。

購入メモ
*中央線古書展/西部古書会館
『マウルスと三びきのヤギ』アロワ・カリジェ(岩波書店)400円
『火の国の女の日記』上・下 高群逸枝(講談社文庫)2冊200円
『さんどりゑ』宮田重雄(暁星出版社)250円
『新あまのじゃく』竹森一則(宮越太陽堂書房)600円
『青バスの女』辰野九紫(日本小説文庫)500円
『猿々合戦』小野佐世男(要書房)300円
『キハ58物語』石井幸孝(JTBキャンブックス)300円
『熱帯魚』牧野信司(カラーブックス)100円
『みだれモコ』吾妻ひでお(双葉社)300円

辰野九紫「青バスの女」表紙
『青バスの女』辰野九紫(春陽堂=日本小説文庫/昭和8)

次はガード下の都丸支店へ。
店頭で『古書店アゼリアの死体』100円と、背表紙の破れた薄い冊子を引っぱり出したら『台所読本』とあって、著者は谷孫六だ。孫六先生はこんな本も書いていたのか、これも100円。
『チャールズ・オルスン詩集』は、500円という値にしばらく思案。巻頭の詩を読んでみる。

 カモメたちをすっぽり覆う
 白い
 空腹の
 灰色

買ってみるか。
店内の棚も見分すると、大屋幸世『蒐書日誌』が全4冊揃で3000円。こうなると判っていれば、1冊ずつバラで買い求めなくても、まとめて買ったほうが早かった。
むむ、昨日、五反田遊古会で買ったばかりの凹天『漫画の描き方』がまたしても現われた。昨日は2000円だった。今日は、もしや300……、いや、3000円だ。安堵。
今朝からどうも、金額の高低にばかり踊らされるということは、これは古本の神様の、戒めをこめた揶揄なのだろう。反省致します。致しますけれど、『二十四時』が300円……。

徒歩で中野。
ブロードウェイ4階のまんだらけに『桑原甲子雄展』図録が3675円。こちらの財布の中身を知り尽くしているかのように、それにぎりぎり見合った値段の本がどこからともなくやってくる。もう一声欲しいところではあるけれど、見つけたときに買っておこう。
もうひとつ、ベルリン刊の写真集で、この表紙の見覚えのある植物拡大写真は、カール・ブロースフェルト『芸術の原型』ではないか(もちろんその場ではBerlin以外のドイツ語は判読できるわけもなく、家に戻って今、ちくま学芸文庫版のベンヤミン『写真小史』を参照しながら写真家の名前や邦題を書いた)。
欲しい! 26250円。不可!
ビニール封入につき発行年は確かめられなかったが、1928年の初版ということではなかっただろうと推測される。しかし後年の再刊本だとしても、写真史においては歴史的といえる作品集だ。遙か昔のベルリンと21世紀の中野と、時間も空間もいっぺんに掻き消されるような立ちくらみである。
仕上げはささま書店に寄って、エッフェル塔とカストリ。

*都丸支店/高円寺
『古書店アゼリアの死体』若竹七海(光文社文庫)100円
『台所読本』谷孫六(家事科学研究所)100円
『チャールズ・オルスン詩集』(思潮社)500円

*まんだらけ/中野ブロードウェイ
『桑原甲子雄写真展:東京・昭和モダン』(東日本鉄道文化財団)3675円

*ささま書店/荻窪
『エッフェル塔の潜水夫』P・カミ(ちくま文庫)630円
『《カストリ文化》考』長谷川卓也(三一書房さんいちぶっくす)525円

【2023年2月追記】即売展初日朝一番/古本の値段
即売展の初日の朝一番には筋金入りの古本好きが参集します。
愛好家、蒐集家、古本屋店主。いずれ劣らぬ面々です。
取った、取られた。壮烈な争奪絵巻が展開されます。
デパートのバーゲン初日の光景と相似しているところがあるのかもしれません。
とはいえ、バーゲン会場というものは、私には未知の世界でありますが、ただひとつ決定的に異なる点があるとすれば、そこに集まる人たちの服装でしょう。
即売展会場では、ことごとく地味な服装の集団が、黙々と乱舞をくりひろげます。
初日の朝一番。ゆっくり本を探したい人にはオススメできませんけれど……。
遠巻きに眺めるだけでも一見の価値あり(⁉)。

〈関連日記〉
西部古書会館の初日風景は以下にも記してあります。
【2010年4月3日/2022年12月追記】初日朝一番の西部古書会館、それから神保町の和洋会

  ◇
古本に定価はありませんから、古本の値段はお店によってまちまちです。
同じお店の中でも、同じ本を違う値で売っていることがあります。
少しでも安く買いたいと、誰しもが望むはずですが、その本との巡り合わせは一種の運命です。
なかなか思うとおりには参りません。
すでに購入している本を、時を経てまたどこかで見かける。
後々に見かけた本の値段が、購入した額より安いときもあれば高いときもあります。
安ければがっかりし、高ければ北叟笑みます。
などと、いちいち一喜一憂するのは、感情の無駄遣いには違いないのですけれど、修練が足りない身の哀しさ、どうしても金額には踊らされてしまいます。
1万円の値が付くような本を100円で見つけたとしたら、掘出し物の発掘ですから、大いに鼻高々となるでしょう。
1万円で買った本を、のちに100円均一棚で見つけてしまったら……。恐ろしいのであまり想像したくはありませんが、絶対に無いとは言い切れない古本世界の深淵です。
あわてて買うのじゃなかった、どうしてあのとき買ってしまったのだろう、もう少し辛抱していればよかった。
値段の話になると、どんどん愚痴っぽくなりそうでいけません。
300円で買うか3500円で買うか、もっと言えば100円か1万円か、それはほんのちょっとした誤差なのでしょう。
甘んじて受け入れるよりほかはなさそうです。

〈関連日記〉
岩佐東一郎『二十四時』を3500円で購入した日については下記参照ください。
【2010年3月19日/2022年12月追記】五反田遊古会から愛書会へ、岩佐東一郎『二十四時』